直木賞の佐藤究さん、犯罪描いた受賞作「執筆中にうなされた」
第165回直木賞は14日、佐藤究(さとう・きわむ)さん(43)の「テスカトリポカ」と、澤田瞳子(さわだ・とうこ)さん(43)の「星落ちて、なお」に決まった。同日夜の受賞会見で佐藤さんは、犯罪を描いた受賞作について「こういう大きな賞を取るということが頭になかったので、何ごともやってみないと分からないんだな、という印象ですね」と心境を語った。 【動画】第165回芥川賞に石沢麻依さんと李琴峰さん、直木賞は佐藤究さんと澤田瞳子さん
佐藤さんは1977(昭和52)年、福岡県生まれ。福岡大学付属大濠高等学校卒。2004年、佐藤憲胤(のりかず)名義の『サージウスの死神』が第47回群像新人文学賞優秀作となり、同作でデビュー。直木賞には今回が初のノミネートだった。 受賞作は、メキシコの麻薬密売人と日本の臓器売買コーディネーターらが登場する犯罪小説。審査では、犯罪を文学にすることについて激論がかわされたという。これについて「先生がたがおっしゃるとおりの部分もある」と認める一方、「(メキシコへ)取材にいったジャーナリストに聞くと、ここで描いたこと以上のことが現地で起きている。僕も今回初めて、執筆中に初めて夢にうなされる経験をしまして」と告白。「出来心で麻薬を買ってしまう人もいるかもしれませんが、こういう連中が背後にいて、金がそこに流れていると知ることにつながれば、クライムノベルを書く意味があると思っています」 出身は福岡県。「福岡に返せない恩があり、返せないまま東京に出てきましたが、ちょっとでも恩返しになったらいいなと思います」と微笑んだ。 直木賞の受賞で世の中の見る目が変わり、立ち位置も変化するのではないかと問われると、「小説家は少しでも読者の皆さんの生活に変化もたらすのが仕事。こっちの見方が変わっているようじゃ手遅れだし、仕事にならない。ですから、僕自身の立ち位置は変えないというほかない」ときっぱり語った。 (取材・文:具志堅浩二)