なぜ神戸は浦和を退団したDF槙野智章を求め、彼は多くのオファーの中からヴィッセルを新天地に選んだのか
センターバックを探していた神戸は、一連の数字を受けてJ1で十分にプレーできると判断したのだろう。J1通算399試合出場は歴代29位。三木谷浩史会長が制覇を目標に掲げるACLでは通算50試合に出場し、2017年大会では頂点に立っている。 鍛え上げられた身長182cm体重77kgのボディには、国内外で刻まれた濃密な経験が脈打っている。急成長中の菊池も、アカデミー出身のホープ小林も、ベテランの域に入った大崎も持っていない武器は、神戸の最終ラインにポジティブな影響を及ぼす。 もたらされるのは持ち前とする身体を張った、泥臭いプレーだけではない。神戸を通して発表したコメントの最後に、槙野は自身に対してこんな言葉を使っている。 「サッカー界のお祭り男」 底抜けに明るいキャラクターだけではない。どのような逆境に直面してもメディアにしっかりと応対する姿勢と、YouTubeの公式チャンネルなどSNSへ積極的に投稿する動画やつぶやきを巧みに融合させながら、自他ともに認めるお祭り男になった。 時には批判の対象になることを覚悟の上で、自身の周囲に笑いの輪を起こさせる理由はただひとつ。チームメイトたちを、フロントを含めたチームを、そしてファン・サポーターを巻き込み、前へ進んでいく上で欠かせない一体感を作り出していく。 そして、加入が発表された直後から“変化”が起こっている。 「ほんとに来ちゃった、、、昔からの憧れの選手と一緒にやれるなんて、、、ヴィッセルしか勝たん。いや槙野智章しか勝たん。日本1いやアジア1 熱苦しいコンビで」 スポーツ紙上で幾度となく報じられていた槙野の移籍が、現実のものになった喜びを菊池は自身のツイッター(@ryuupei4)で、こうつぶやいた。すると、槙野もさっそく自身のツイッター(@tonji5)を更新。こんなリプライで共闘を呼びかけた。 「来季、日本で最も熱く激しいプレーでサッカーファンを魅了してやろうぜ!準備はいいかー?^ ^」 運命に導かれた凱旋と言うべきか。槙野の神戸加入がアナウンスされた数時間後に、来シーズンのホーム開幕戦のカードがJリーグから発表された。 神戸は2月19日もしくは20日に敵地で名古屋グランパスとの開幕戦に臨み、続けて同23日に埼玉スタジアムへ乗り込んで浦和と対峙することが決まった。 神戸のホーム開幕戦は、同26日もしくは27日に行われるアビスパ福岡戦となる。しかし、ACLグループリーグと重複する可能性がある浦和対神戸の第9節だけが大幅に前倒しされ、天皇誕生日で祝日となる2月23日に組み込まれた上で発表された。 自身の決勝ゴールで浦和を天皇杯制覇に導き、来シーズンのACL出場権をもたらしたからこそ実現した古巣との邂逅。大分トリニータを撃破した天皇杯決勝後のオンライン会見をあらためて振り返ると、槙野はこんな言葉を残している。 「来年は違うチームに行きますけど、最後まで輝く姿、泥臭い姿をファン・サポーターのみなさんに見せることが僕の使命だと思っています」 この段階で神戸との交渉が、おそらく合意に近づいていただろう。ただ、さまざまな思い出が詰まった埼玉スタジアムへ浦和の敵として凱旋する光景が、こんなにも早く現実のものになるとは槙野自身も想像していなかったはずだ。 Jリーグの競技スケジュールを自動的に作成する、「日程くん」の通称で知られる専用アプリをも巻き込みながら、新天地・神戸での「槙野劇場」が早くも幕を開けた。 (文責・藤江直人/スポーツライター)