なぜ浦和“ラストマッチ”の槙野智章が天皇杯決勝のヒーローになれたのか…「泣いていても前に進めない」
サッカー日本一を決める第101回天皇杯全日本選手権決勝が19日に東京・国立競技場で行われ、浦和レッズが2-1で大分トリニータを撃破。3年ぶりの優勝を果たし、来シーズンのAFCチャンピオンズリーグ(ACL)出場権を獲得した。 新型コロナウイルス感染拡大後の国内スポーツ界で最多となる、5万7785人の大観衆で埋まった大一番は1-1で迎えた後半アディショナルタイムに、決勝を最後に浦和のユニフォームを脱ぐ元日本代表DF槙野智章(34)が劇的な決勝ゴールを一閃。今シーズン限りで現役を引退するキャプテン、MF阿部勇樹(40)が天皇杯を高々と掲げた。 浦和は前身の三菱重工時代を含めて、慶應BRB(慶應クラブおよび全慶應)に並ぶ大会最多の8度目の日本一を獲得。1993年のJリーグ創設以降では4度目の優勝となり、鹿島アントラーズの5度に次ぐ2位にガンバ大阪とともに並んだ。
居残りシュート練習の成果
映画やドラマのようなフィナーレを、いったい誰が予想しただろうか。 浦和の一員としてプレーする、泣いても笑っても最後の一戦。守備固めとして後半38分から途中出場し、守護神・西川周作からキャプテンマークを託された槙野は、同45分に自身がマークしていたMFペレイラにまさかの同点弾を決められた。 直後に槙野は振り返り、おもむろに西川へ問いかけた。 「シュウちゃん、どうする? 終わらせる?」 終わらせるとはすなわち、大分がさらに勢いを増す状況をまず落ち着かせ、メンタル面を含めて体勢を立て直した上で延長戦に勝負をかける作戦を意味する。第4審判を確認した西川は、アディショナルタイムが5分と知るや、すぐに首を横に振った。 「マキが最後、持っていけ! マキが前に入ってゴールを取りにいけ!」 絶好のチャンスとなるセットプレーは、アディショナルタイム3分に訪れた。右コーナーキック。サンフレッチェ広島時代からの盟友でもある西川に背中を押され、心を熱くたぎらせながらも、槙野は冷静沈着に周囲の状況を見渡していた。 果たして、左利きのMF大久保智明がインスイングで放ったコーナーキックは、大分のDFエンリケ・トレヴィザンに頭でクリアされる。落下してくるボールに対して、ペナルティーエリアの外で浦和のボランチ柴戸海がシュート体勢に入った。 この瞬間、槙野の脳裏には日課としてきた居残りシュート練習が蘇った。