なぜ神戸は浦和を退団したDF槙野智章を求め、彼は多くのオファーの中からヴィッセルを新天地に選んだのか
今月に入ってからは「泣いていても前へ進めない。一日一日を無駄にはしたくない」と気持ちを整理。新天地での現役続行を進むべき道に定めた槙野のもとへは神戸に加えて、すべてのカテゴリーのJクラブから複数のオファーが届いていた。 迎えた交渉のテーブル。来シーズン以降の戦いに誰よりも必要だと熱く訴え、来年5月に35歳になる槙野の心を大きく高ぶらせたのが神戸だった。 鹿島アントラーズや名古屋グランパスとの争いを制した神戸は、今シーズンのJ1リーグ戦においてクラブ史上で最高位となる3位へ躍進した。稀代の司令塔アンドレス・イニエスタが契約をさらに2年間延長して臨む来シーズンはまだ見ぬ頂点を目指し、さらには2年ぶり2度目となるACLへプレーオフから臨むことになった。 しかし、オフに入ってすぐにフェルマーレンの退団が発表された。 バルセロナから2019年夏に加入した左利きのセンターバックは、ベルギー代表としてヨーロッパとの間を何度も行き来した関係で、今シーズンの出場試合数こそ「23」と少なかったものの、安定したパフォーマンスで守備の柱を担い続けた。 来シーズンを戦う上で必要不可欠な存在として、神戸は満了を迎える契約の延長を打診した。しかし、3大会連続3度目のワールドカップ出場を目指す上で、ベルギー代表を率いるロベルト・マルティネス監督にアピールしやすい、ヨーロッパのクラブでプレーする道を希望したフェルマーレンを翻意させられなかった。 今シーズンの神戸のセンターバックでは、出場37試合、プレー時間3284分とともにチーム2位の数字をマークした25歳の菊池流帆が台頭した。一方で21歳の小林友希は22試合・1509分に、30歳の大崎玲央は11試合・582分にとどまった。 補強が急務となった状況で、新型コロナウイルスの変異株「オミクロン株」への水際対策として年末までの期間で政府が定めていた、全世界を対象にした外国人の新規入国全面停止が、当面の間延長される方針が早い段階から示唆されていた。 先行きが見通せない以上は、新外国籍選手を獲得する補強はリスクを伴う。しかし、国内とアジアを同時に戦い抜くには現有戦力では心もとない。必然的に日本人選手へ目が向けられるなかで急浮上したのが、浦和退団が発表されていた槙野だった。 浦和でのラストシーズンで、槙野はリーグ戦で31試合に出場し、プレー時間はフィールドプレーヤーで4番目に多い2305分を数えた。夏場に新加入した元デンマーク代表のアレクサンダー・ショルツ(29)にポジションを奪われたものの、2月の開幕戦からマークした18試合連続を含めて、先発フル出場は「25」を数えている。 加えて、準決勝に進んだYBCルヴァンカップで11試合・634分、優勝した天皇杯では5試合・235分に出場。トータルのプレー時間が3000分を大きく超えた槙野の軌跡は、来シーズンの契約更新を見送られた理由が年齢的な衰えではなく、世代交代が急務だと考えた浦和が断腸の思いで下した決断だったことが伝わってくる。