「転売ヤー」への拒否感はなぜ生まれる? アレルギー反応との指摘も #くらしと経済
「戦後も日本では、西洋のチップという習慣がまったく根づきませんでした。コインを大人に渡すのは失礼なことをしているように感じるんですね。旅館で仲居さんに『お世話になります』と心づけを渡すときは、紙に包む。これらは、日本人にとってお金というのは汚いもの、卑しいものという認識があるからです。また昔から、お金は大切だからむだづかいしてはいけない、お金というものは汗水たらして働いて初めて手に入るものであるという教育がなされてきました。『士農工商』という身分制度がありましたけど、お侍さんの次に偉いのは表向きに農民ということにしたのも、そういうことかなと思います。お米を作る人の次に偉いのは工業製品を作る人。商売なんかをするやつは一番下だという。その感覚が今でも残っていて、一生懸命荷物を100個運んでお金をもらいましたと言えば、真面目な働き者だと尊敬される。ところが株や土地でもうけましたなんて言ったら、『なんだあいつは』となるわけです。いわんや外国人の転売をや、です」
モノを右から左へ動かすだけで金もうけをする。行列に割り込んでわれ先にと限定商品を買いあさる。その強引さを「マナー違反」だとして、日本人がアレルギー反応を起こしている状態だと碓井さんは言う。 「日本人は行列でも割り込まない、割り込んではいけないのだと考えている。でも、隙間があったら割り込んで当たり前でしょという文化もある。あとは数ですよね。転売ヤーが1人2人ならまだしも、大挙して押し寄せてくる感じに日本人は恐怖を覚えているのかも。どの国でもそうですが、少数派の外国人が元の文化の中である意味小さくなって生きているうちは、みんな優しいんですよ。ところが、数が増えて力を持ち、金もうけをし始めると、非難がはじまります」
「日本人による中国人転売ヤーへの批判の中には、ちょっと理不尽なものもあると思う」 そう言うのは、先の奥窪さんだ。 「日本はずっと定価販売。しかし転売市場では、お金を持っている人が限定品を手に入れることができて、定価では手に入らない人が出てくる。これまで1億総中流と言われてきた日本が、まざまざとその格差に直面しているからこそのアレルギー反応かな、と。日本以外で、転売ヤーにここまで罵詈雑言を吐く国民も、あまりいないのでは。アメリカでは、野球のチケットもダイナミックプライシングになっていて、同じ球場で同じチームが試合しても、例えば大谷翔平が出場する試合としない試合で、値段が違ったりするんですよね。最近では日本の宿泊業界もダイナミックプライシングの導入が進んでいて、かつてはさんざんたたかれた日ごとの価格変動も、当たり前になりつつあります。あらゆるものの値付け方法に変化が進めば、最近また話題になった興行チケットも、転売ヤーが入り込む隙間はなくなっていくんじゃないかなと思いますけどね」