虐殺の衝撃と今も続く攻撃への慣れ ウクライナ住民が見据える「戦後」 #ウクライナ侵攻1年
筆者も地下鉄の避難所や防空壕などを取材したが、避難者の支援活動をしているのは民間のボランティアがほとんどで、行政では自治体が行う支援がわずかにあるくらいだった。ウクライナは今回の紛争以前から汚職が問題になっていたが、戦時下でも外国からの支援金の分配の不透明性などが指摘されている。 「政府や行政の機能不全の上に我々のボランティア活動が成り立っている。戦争に勝とうが負けようが、こうした腐敗構造を変えなければ私たちに未来はない」
困難なのは戦争中より「戦後」
ロシアのウクライナ侵攻から2月24日で1年を迎える。戦闘はいつまで続くのか、誰にもわからない。マクシムは、長期的な視点で活動していくべきだと考えている。 「まず国の未来である子どもが大事だ。戦争で彼らの教育を受ける機会がなくなっている。停電になるとオンライン授業もできない。現状、多くの子どもたちが家族や母親と外国に避難している。戻ってこない人もいるだろう。この国の将来のために行動するウクライナ人は減るだろう。ではどうするか。この国を住むのに適した素敵な場所にするのだ」
キーウに住むアンドリは、希望的観測ではあるが、戦争はこの春くらいには終わるのではないかと考えている。ただ、問題は「その後」だという。 「困難なのは戦争中よりも『戦後』だ。私たちは、このウクライナの東部にある(戦争で荒廃した)広大な領土をすべて再建しなければならない。これは大変な作業だ」 ロシアが新たな大規模攻撃を始めるとの観測も浮上するなか、なお戦況は予断を許さない。東部の激戦地ソレダルは焦土と化し、バフムトはロシア軍の包囲が進むなど、さらなる戦闘の激化が懸念されている。ウクライナの人たちは国家再建を見据え、一日も早い終戦を望む。侵攻から1年を迎える今、彼らの願いはかなうのだろうか。
------ 八尋伸(やひろ・しん) フォトグラファー。1979年、香川県生まれ。社会問題、紛争、難民、災害等を関心領域とする。2010年頃より、エジプト革命、香港騒乱、シリア内戦、東日本大震災、福島原発事故、ウクライナ戦争などを取材。シリア内戦シリーズで2012年上野彦馬賞、2013年フランスのThe 7th annual Prix de la photographie, Photography of the year受賞