加害者が賠償金を払わない――。犯罪被害者は泣き寝入りの現実 国の乏しい経済支援に立ち上がる弁護士ら
ある日突然、愛する家族の命が奪われる。悲惨な現実に直面した犯罪被害者の心の傷は、何年経っても癒えることがない。さらなる問題は、事件の後も刑事手続きやメディア報道など様々な形で傷つけられること、そして加害者に比べて国の経済的な支援が乏しいまま放置されていることだ。事件時のみならず事件後も苦しむ犯罪被害者、そうした現状の制度的改善を目指す人たちを取材した。(文・写真:ジャーナリスト・小川匡則/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
事件現場は自宅キッチン、電話を境に人生は一変
それは突然の電話だった。2012年8月25日の昼、さいたま市の会社員、栗原一二三さん(61)の職場に埼玉県警から連絡があった。急いで自宅に戻ると、一帯には警察車両や消防車が並び、規制線の内側には何人もの捜査員がいた。最愛の母、秀子さん(享年77)の命が奪われたのだという。加害者は近くに住む30代(当時)無職の男で、金銭が目的の強盗殺人だった。 まずは警察車両の中、そして警察署で事情聴取が行われた。ようやく病院に駆けつけると、わずか4時間前に玄関先で別れた母親が別人のような姿でベッドに横たわっていた。搬送されたときにはすでに心肺停止状態だったと医師から聞かされた。 「事件現場は自宅のキッチンでした。カレンダーはまだ当時のままです。母親は鋭い刃物で背後から複数回刺されて、その一つは貫通していたそうです」
事件から10年経った昨年11月、栗原さんと妹の穂瑞さん(58)は都内で開かれた犯罪被害者週間の広報啓発イベントで講演を行い、事件後も変わらず続く苦しみを語った。 穂瑞さんは当時、実家近くのマンションに住んでいた。母親からの「来て! 早く来て!」という切羽詰まった電話を受けて、自転車を飛ばして駆けつけた。鍵がかかっていなかった玄関から入ると、倒れた母親の姿が目に飛び込んできた。自らが第一発見者となり、110番通報をした。このときを境に人生は一変した。