8割が「感染しても相手に伝えない」――梅毒急増の背景に性感染症の“誤解と軽視” #性のギモン
今、性感染症の広がりが危惧されている。2022年の梅毒感染者数はおよそ1万3千人にのぼり、前年の1.6倍に急増した。感染拡大の背景に何があるのか。昨年12月末、性感染症に関する調査をNHKと専門家が実施したところ、オンラインでの出会いなど感染ルートが多様化していることが明らかに。さらに、感染リスクが身近にあるにもかかわらず、適切な予防や治療につながっていない実態も見えてきた。(取材・文・写真:NHKクローズアップ現代「#自分のカラダだから」取材班/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
「自分は大丈夫」「ピルを飲んでいればコンドームしなくていい」 誤解が招く感染
関東地方の会社員・カオリさん(仮名・30代)は昨年10月、1年半付き合っていた交際相手との性行為中に異変を感じた。相手の性器にしこりができていたのだ。しかし相手に尋ねても「以前からしこりはあった」と言われ、不安は気のせいだと自分に言い聞かせてそのまま性行為を続けたという。 「その場の雰囲気もあって、途中でやめることができませんでした。私は避妊のためにピルを飲んでいたので、コンドームもしていませんでした。健全なお付き合いをちゃんとしていれば性病とは無縁かなと。1年半という時間が信頼関係を築いていたこともあって、大丈夫だろうと疑いませんでした」 翌日インターネットで調べると、「性器のしこり」は性感染症の典型的な症状の一つだった。「関係が切れたらどうしよう」というためらいもあったが、調べれば調べるほど不安が大きくなり、相手の男性にもう一度確認した。
その後、相手の男性が医療機関で検査した結果、「梅毒」だと判明。結果を聞いたカオリさんも検査を受けたが、当初は陰性だった。医師から「梅毒は潜伏期間が長い」と説明を受け、2週に一度の検査を続けたところ、7週間後に「陽性」の結果がでた。 「『まさか自分が梅毒にかかるなんて』というのが、最初に思ったことですね。ショックがとても大きかったです。当時、知識がなかったので、治療方法や治療にどれくらい時間がかかるのか、とにかくいろいろ不安でした」 相手の男性は、梅毒だと判明する数カ月前に性風俗を利用していたことが後に判明。感染したのはその時ではないかとカオリさんは考えている。男性との交際は、終わらせることになった。 「信頼関係は一気に崩れてしまいました。でも(梅毒だったと)連絡してくれたのでまだよかったです。急に音信不通とかになっていたら、私は無症状だったのでずっと梅毒を放置していた可能性もあります。正直であることは大切ですよね。しこりを見つけたときに、瞬間的に『前からあった』なんて嘘をつかずに『ちょっと不安かもしれない』と正直に話してもらえれば、気持ちもまた違ってたのかなって思います」