【豪SNS禁止法成立】なぜSNSが「子どもの心」を不安定にするのか? 超進学校・開成の元校長が中高生に薦めたい一冊を語る(レビュー)
■12~18歳の不安定な時期に「脳科学」の観点から説明
私はかれこれ40年以上、10代も含めて教育全般に携わってきましたが、教育は6年刻みで考えればよいのではないかと思っています。 6歳までが幼児教育です。生活の大部分が親なしでは成り立たず、食事から排便に到るまで世話される段階から、徐々に成長していく。親の後追いをしたり、親が不在だと不安で泣き出したりする状態から、食事でも着替えでもひとりでできるようになることが到達目標になります。 次の6年、12歳までが初等教育です。それまではほぼ「自分と親」だけであった人との関係性が、学校という場で変わります。親という存在に加えて、「友達とうまく遊べるか」、「先生に馴染むことができるか」という要素が重要になり、あるいは「時間割」というものに端的に表れていますが、時間通り行動できるかということが問われてきます。それでもまだ「親元に戻れば安心」という時期です。 その後18歳までが中等教育、さらにそれ以降が高等教育ということになるわけですが、高等教育では基本的に、その後の職業選択に関わってくる事柄を学びます。専門性が出て来て、いわば大人への道筋に直結しますが、中等教育はその前の段階です。 発達心理学ではこの時期に自己同一性、アイデンティティを獲得してゆくと言われます。アメリカの発達心理学者エリク・H・エリクソンが提唱した概念です。自己認識をする、つまり、「私とはいったい何者か」「本当の自分とは」ということを考える時期です。 それまでは親との一体感が子供にとって最も重要だったのが、今度は親から分離する過程になるわけです。不安定になりますし、場合によっては親を否定することで自己を確立してゆくことになる。これがいわゆる反抗期で、ここでうまく自己を確立できないと上手に大人になれないということになります。 教育の目的はさまざまあるでしょうが、動物も人間もすべての生き物に共通する願いは、親から自立して、「自分で食っていけるようになる」ということがあると思っています。 そういう意味で、葛藤し、不安定になりながらも、自分の存在というものを考え、自己を獲得していくこの中等教育の6年間というのは非常に重要だと思っています。 そうした時期に「なぜ自分は生きているのか」「どうして不安になってしまうのか」といったことまで脳科学の観点から、わかりやすく説明してくれる本書は、彼らにとって救いになることもあるでしょう。中高生に一度は手に取ってもらいたい本だと思います。