【豪SNS禁止法成立】なぜSNSが「子どもの心」を不安定にするのか? 超進学校・開成の元校長が中高生に薦めたい一冊を語る(レビュー)
■思春期の若者にとって救いになる言葉
『最強脳』で運動がもたらす10代の青少年の脳への影響を説いたアンデシュ・ハンセン氏が、今度は脳が及ぼす10代の青少年の心への影響について本を書きました。『メンタル脳』です。 『最強脳』の時にも思ったことですが、この人は中学生や高校生の気持ちがよくわかっています。「まえがき」に「書こうと思ったのは自分が10代の頃に読みたかった本です」とありますが、きっとそうなのでしょう。それは本の構成にもよく表れています。 第1章「なぜ私たちは生きているのか」に始まって、「なぜ感情があるのか」「なぜ不安を感じるのか」「なぜ記憶に苦しめられるのか」「なぜ引きこもりたくなるのか」「なぜ運動でメンタルを強化できるのか」「なぜ孤独とSNSがメンタルを下げるのか」「なぜ『遺伝子がすべて』ではないのか」「なぜ『幸せ』を追い求めてはいけないのか」と続きます。 もしかしたら一生かけても答えが見つからないかもしれないこれらの問いは、この年代の人間がしばしば囚われるものでしょう。10代の若者なら、あるいは大人でも引き込まれる人は多いのではないでしょうか。 そして活字を辿れば、この著者ならではの平易な書きぶりは意味がすっと入ってきます。中学生や高校生が充分読みこなせるわかりやすさです。 現代人の脳はかつてサバンナで暮らしていた何万年か前からさして進化していないとハンセン氏は言います。その上、「脳は今でも自分たちはサバンナで狩猟採集民として暮らしていると思っている」と言います。人類が誕生して700万年とか600万年と言われています。ホモ・サピエンスが登場したのが30万年前とか20万年前だとして、農耕や牧畜が始まったのはせいぜい1万年前です。ハンセン氏の言うことは大げさではないでしょう。 そのサバンナ時代を生きのびるために進化した脳が、現代のさまざまな刺激に反応することで、過度な不安やパニック障害、PTSDやうつ症状を引き起こすのだと彼は説きます。同時に、それらは脳が自分を守るための「防御メカニズム」だとも言うわけです。人間の自然な機能であり、その人が「病気だとか壊れているとかいうわけではない。もちろん性格のせいでは絶対にない」とまで言い切ります。 これは、ともすれば「自分はちょっと人とは違うのではないか」「おかしいのではないか」と思いがちな思春期の若者にとって、救いになる言葉ではないでしょうか。