親の介護で子供の自由が奪われる日本 帰省で介護も スウェーデンでは同居自体がまれ、「家族介護」は自由意思で
保育園から互いの価値観を尊重する訓練
例えば、どの保育園にも毎朝9時ごろ果物を食べる時間があります。子供たちは、バナナ、リンゴ、洋ナシなど数種類の果物が入ったボールと果物ナイフを持った先生の周りに集まります。先生は一人一人に、どの果物を食べたいのかを聞き、子どもは自分のほしい果物を言います。先生は子どもに合わせて、皮を剥いたり、剥かなかったり、半分に切ったり、小さく切ったりします。 子どもがすぐにほしい果物を言えなくても、先生はゆっくりその答えを待ち、先生が決めることはありません。一回りして、子どもたちに果物が配られると、食べ終わった子に先生がもう一度、欲しいものがあるかと聞きます。たくさん食べる子、あまり食べない子がいますが、それを不平等だとは言いません。それぞれが食べたいものを満足する量を食べるというのがスウェーデンの保育園生活です。 また、保育園の時から「同意」という概念を学びます。例えば、自分の体は自分のものであり、どんな大人でも子どもの同意なしに体に触れることは許されないことを教えられます。これは、性教育や性犯罪の予防につながります。スウェーデンでは、親しい間柄ではハグをすることは普通ですが、子どもはハグをしたくなければ、大人にもお友達にもはっきりと断ることができると学びます。 小学生以降も、自分の考えを持つこと、互いの考えを尊重することを大切にしながら、大人になっていきます。 職場でも、先輩後輩という概念はなく、新人だから何かをやらなくてはならない、という決まりはありません。スウェーデン人は何か頼み事をするときは、例えば看護師同士でも「採血してきて」ではなく、「あなたは採血を手伝いたい?」と相手の意向を聞く姿勢を示します。親族が集まるクリスマスでも、長男の嫁だからお手伝いしなくてはならない、ということはありません。
家族とは会うことを喜び合える関係でいたい
スウェーデンに来た移民のための「スウェーデン社会のガイド」というサイトには、「どの国の社会も高齢者の世話をしますが、その方法は様々です。多くの国は、近親者が高齢者の世話をしますが、助け合う必要性が高まった場合は、親は子や孫と同居するのが一般的です。一方、スウェーデンでは、国や地方自治体には、高齢者が必要な支援を受けられるようにする責任があります。これは社会福祉法に規定されています。そのため、大人が親と同居するのは珍しいことです」とあります。 高齢者にとって、自分のことをよく知っている子どもに介護をしてもらうことは、安心なことかもしれません。しかし、子どもの負担が大きすぎては一緒にいることもお互いにつらくなります。スウェーデンの友人は、「家族に会うことを喜び、お茶の時間を楽しむ関係でいたい。家族に対して、自由な時間が奪われるから疎ましい、と思うのはとても悲しいこと。社会支援を充実させ、それぞれが自分の人生を選べるようにするのが、幸せになる方法」と話していました。(長谷川佑子 認知症専門看護師)