精神科医が伝えたい 訃報の悲しみから心を回復する方法
著名人の訃報を受け、なんだかずっと落ち込んでいる。ふと思い出して、ため息をついてしまう。そんな沈んだ気持ちをやわらげ、心を回復させるためのヒントを、精神科医・井上智介医師に聞きました。井上医師は、「たとえ一度も会ったことがない著名人であっても、テレビでよく見かけるなど“精神的な距離”が近い人が亡くなった場合、大きなショックを受けてしまうのは自然なこと」だと語ります。(Yahoo!ニュースVoice)
訃報へのショック あなただけじゃない
私自身、精神科医として多くの人の命と向き合ってきました。それでも今回の著名人の訃報を聞いた時はとても驚きましたし、ショックを受けました。精神科医として、同じくショックを受けている人の気持ちをやわらげる情報を発信しなければという思いもありましたが、正直なところ、しばらくの間は手が震えてなにもできませんでした。 たとえ遺族ではなくても、見知った人が亡くなった時は、気分が落ち込んだり、孤独を感じたりすることがあります。相手が一度も会ったことがない著名人だったとしても、人柄を知っていたり、テレビでよく見かけていたりと、“精神的な距離が近い”人が亡くなってしまうことは、とても苦しいことです。それが自殺報道であればなおさら、重たい気持ちになってしまうのは自然な心の反応です。決してあなただけではありません。 グッと胸が締め付けられるような悲しみを感じている時、「こんな風に悲しんでいるのは、自分にとっても良くないことだ」「当事者ではないんだから、忘れるべきだ」と思う方もいるかもしれません。ですが、その悲しみを我慢する必要はありません。心にあふれる気持ちを、無理に抑える必要はありません。
折り合いをつけ、心を回復する方法
あふれる悲しい気持ちを一人で抱えていることがつらい場合は、それを自分の中に溜め込むことはせずに、できるだけ外に出すようにしてください。例えば、誰かに自分の気持ちを聞いてもらう。または、故人に向けて自分の気持ちを手紙に書いて伝えるという形も悪くありません。僕自身は実際に、ブログに自分の気持ちを書いて整理し、なんとか心を立て直すことができました。 孤独を感じる場合は、できるだけ人が集まる場所で過ごすようにしてみてください。カフェやファミレスで、人の気配を感じながら過ごすだけでも、社会的なつながりを感じ取ることができると思います。他にも動画やライブ配信など、自分の好きなコンテンツを見ることもおすすめです。ファン同士や、クリエイターさんとのつながりを感じることで、孤独感をやわらげることができます。 「いま楽しいことをするのは不謹慎かもしれない」「悲しいことが起きてしまったんだから、いまは元気になってはいけないんだ」と、自分で自分を縛り付けているような方もいるかもしれません。しかし、落ち込みを忘れるぐらいに、自分の好きな趣味に没頭する時間を作ってみてもいいんです。自分の心を守るためには、考え方によっては不謹慎と思われるような行動をしてみて、悲しい事実との折り合いをつけていく必要があります。 あるいは、怒りという感情を抱いてしまうのも自然なことです。「なんで亡くなってしまったんだ」と、その怒りを本人にぶつける形で表す人もいます。「自分にももっとできることがあったんじゃないのかな」と、自分で自分にぶつけてしまう人もいます。他にも、「もっと国として何かができたんじゃないか」「メディアとして何かできたんじゃないのか」とか、別のところに怒りをぶつける人もいます。なので、SNS上では色んな怒りが渦巻いています。 怒りを感じることは悪いことだと思われがちですが、決してそうではありません。怒りを感じることもまた、事実に折り合いをつけ、自分の心を回復するプロセスの一部であるということは忘れないでほしいです。怒りのままに他者を攻撃することにはリスクがありますが、怒りの感情自体は否定せず、自分の心で受け止めてみてほしいです。 心の中に様々な感情が渦巻いているからこそ、自分の感情が正当なものなのかが気になって、SNSなどで他の人がどう感じているのかを探したくなるかもしれません。しかし、それをしすぎると、自分の心がどんどんネガティブな方向に引っ張られてしまうこともあります。やはり適切な距離をとって、自分の心を守ることを大事にしてほしいと思います。