「ひきこもりは生き延びるための選択肢」当事者に寄り添い続けたジャーナリストが語る、本当に必要な支援とは #今つらいあなたへ
“あなたらしい生き方を応援する”というメッセージを届けることが大事
――池上さんが長年取材を続ける中で、ひきこもりの当事者に対する社会の向き合い方に変化を感じますか? 池上正樹: 大きく変わっていますね。以前は、ひきこもり支援と言えば、人を社会に適応させよう、更生させようという視点でアプローチされていました。しかし、今は多様性の時代ですので、国や地方自治体の行政などでも一人ひとりの状況に合わせて、本人の望むサポートをしていこうという考え方に変わりつつあります。 不登校の場合は、教室以外の場所で勉強するという選択肢がありますし、学校の入口まで来たら出席や単位を認めようという動きもあります。また、江戸川区ではひきこもり状態の子どもとその家族に向け、「駄菓子屋居場所 よりみち屋」を開いており、店に通う不登校の子供たちを見て、出席日数として認めようという動きが学校現場から始まってています。このような新たな考え方が広まってきていることは、いい傾向だなと思いますね。ひきこもっていたとしても、大事なのは、自分を理解してくれる人と出会い、そのつながりを維持することで、その人らしく生きられることです。社会全体がそういう方向に変わってきていると感じます。 ――ひきこもり当事者に対して、社会はどのように支えていくべきだと思いますか。 池上正樹: 「あなたらしい生き方を応援しますよ」というメッセージを届けることが大切だと思います。人はそれぞれ強みや長所を持っているのですが、ご家族は不安や焦りがあるのでそれが見えにくくなっていて、ネガティブな部分にばかり目を向けがちです。それでは家族と当事者がお互いに余計に辛くなり悪循環になってしまうと思います。強みを生かし、苦手な部分に配慮しながらどう生きていくかが重要です。 ――現在、ひきこもり当事者に対してどんな支援団体や支援サービスがあるのでしょうか。 池上正樹: 例えば、「COMOLY」という団体は、家から出られない人たちに在宅ワークなどの収入につながる仕事を提供するサービスを立ち上げています。Webのアプリ開発、チラシやパンフレット、報告書の作成、イラスト制作などの仕事を提供しているそうです。現在の登録者は約1,600人いて、ひきこもり当事者にそれだけ多くのニーズがあるんだと感じますね。専門的なスキルが必要とされることもありますが、自分の強みが仕事につながるかどうか連絡をしてもらえるといいと思います。 また、私が長年関わっている「KHJ全国ひきこもり家族会連合会」では、ひきこもり経験者やご家族の方に対して、全国に57ある支部で「KHJひきこもりピアサポーター」として認定しています。同じ仲間だからこそ気持ちが分かることがあるので、ひきこもりについて相談に乗ったり家を訪問したり、サポート活動を行っています。また、同団体では「たびだち」という雑誌を年4回発行しているのですが、そこでイラストを描いていただいている方は、20年間ひきこもっている48歳の方なんです。オンライン上で依頼して、些少ですが報酬もお支払いしています。 厚生労働省のホームページでもさまざまなサポート機関の情報を掲載して、ひきこもりの当事者や家族と社会とのつながりを増やしていこうとしています。当事者の方や、当事者が近くにいるという方にはそんなサービスがあることをぜひ知ってほしいですね。 ----- 池上正樹 1962年、神奈川県生まれ。KHJ全国ひきこもり家族会連合会副理事長。通信社などの勤務を経て、フリーのジャーナリストに。1997年から日本の「ひきこもり」について取材。全国各地でひきこもり支援に携わる。東日本大震災直後には被災地に入り、ひきこもる人たちがどう行動したのかを調査した。著書に、『ルポ「8050問題」高齢親子〝ひきこもり死〟の現場から 』(河出新書) 、『あのとき、大川小学校で何が起きたのか』(青志社)など。 文:都田ミツコ (この動画記事は、TBSラジオ「荻上チキ・Session」とYahoo! JAPANが共同で制作しました) 本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。 「#今つらいあなたへ」は、Yahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の一つです。つらい気持ちを抱えた人の「生きるための支援」につながるコンテンツを発信しています。