「ひきこもりは生き延びるための選択肢」当事者に寄り添い続けたジャーナリストが語る、本当に必要な支援とは #今つらいあなたへ
「ひきこもりは生き延びるための選択肢」
――政府はひきこもりについてどう定義しているのでしょうか。 池上正樹: 厚生労働省の研究班はこれまで「原則的には6ヵ月以上にわたって概ね家庭にとどまり続けている状態(他者と交わらない形での外出をしていてもよい)」と定義してきました。客観的に見て、「家族以外との関係性がない」というのがポイントだと思います。ただ、6ヵ月という期間については議論されており、定義の見直しが行われています。定義そのものも、客観的な状況があった上で「本人が支援を必要としているのか」をもっと見ていこうという方向で再検討されています。 ――世間が抱く“ひきこもり”のイメージと、実態にギャップを感じることはありますか。 池上正樹:世間的には、「ひきこもりは甘え、怠けている」というイメージがあると思います。しかし実際のひきこもり状態にある人は、学校や職場でさんざん尊厳を傷つけられ、トラウマになるようなことがあったときに、そこから生き延びるための選択肢としてその手段を選んでいるんです。 例えば、東日本大震災の被災地で取材した際に、津波が来ることが分かっていながら逃げようとしなかったひきこもる人が何人もいたという話を聞きました。一体なぜ逃げなかったのかを調べると、本人にとって地域や社会は命の危険を感じる場所なので、もうすでに家の中に避難していたのではないかと知ってハッとしたんです。「今、自分は避難している状態なのに、どこに避難すればいいのか」と思っていたのではないかと感じました。実際、あるひきこもり当事者は「津波よりも避難所の人間関係の方が怖かった」と証言されています。能登半島地震でも同じようなことがあり、家の下敷きになる前に家族を助けるなどの理由で脱出したものの、「避難所には行けない」という人たちが何人もいました。 ――ひきこもりをしている人たちについて、知ってほしいことはありますか。 池上正樹: ひきこもり状態にある人の多くは、できる範囲で健康のために運動をしたり、家事をやろうとしたり、自分なりの居場所を探そうとしたりと、一生懸命生きようとしています。しかし、周りからなかなかそう見てもらえていないのではないかと思います。だから、周囲の人が「自分を守るために、今は家にひきこもらざるを得ないんだな」と見てあげると、ひきこもりの人たちはエネルギーを充電する期間を経て「生きてみようかな」「もう一度地域や社会に出てみようかな」と思えるようになるかもしれません。