人流復活で増えるトコジラミ「深刻に捉えすぎず、冷静に対策を」 自ら刺されて図鑑を作った皮膚科医 #なぜ話題
春になって暖かくなると「虫刺され」の被害が増えてくる。3月上旬には首都圏の電車内でトコジラミを発見したというSNSの投稿が話題になった。トコジラミのように人に直接的・間接的に害を与える虫を「衛生害虫」と呼ぶ。皮膚科医の夏秋優さんは、自ら「実験台」となって衛生害虫に刺され、症状をまとめて図鑑を作った。「虫刺され」という身近な皮膚病との付き合い方を、夏秋さんに聞いた。(取材・文:神田憲行/撮影:宗石佳子/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
清潔・豪華な高級ホテルにもトコジラミが侵入
春から夏にかけて気候が暖かくなると、虫の活動が活発になり、「虫刺され」の被害が増える。ここ数年、とくにニュースを騒がしているのが、トコジラミの蔓延だ。刺されると猛烈なかゆみが襲う。今年3月上旬でも首都圏の電車シートでトコジラミが発見され、SNSで拡散されてJR東日本が対応に追われた。このように、人に直接的・間接的に害を与える虫を「衛生害虫」と呼ぶ。 トコジラミは「シラミ」と付くものの実はカメムシの仲間だ。「最近になって騒いでいますが、私からすれば今さらですよ」と夏秋さんは言う。 「世界的には2010年ごろからすでに蔓延していました。日本でも被害が報告されていたんですが、コロナ禍で人流が止まり、一時的に減ったかのように思われていただけなんです。トコジラミは必ず人や荷物にくっついて移動するので」 「ただ最近の流行で特徴的なのは、高級宿泊施設でも見つかっているところです。それまでは衛生状態がよくない簡易宿泊施設などで見つかるのが通例でしたから。高級ホテルなどで見つかっているのは、やはりインバウンドの影響でしょう。最初は海外から持ち込まれ、いつのまにか室内で繁殖したトコジラミが荷物にまぎれ込んで旅行者とともに次の宿泊施設や一般住宅に運ばれているのだと思います」
患者が宿泊した施設に連絡 「いました」「駆除しました」という感謝の言葉も
かつて南京虫と呼ばれたトコジラミ、夏秋さんによると1970年代にはぐっと減り、まるで絶滅危惧種のような存在だったという。 「DDTや有機リン系、ピレスロイド系殺虫剤などによる駆除が進んでいたんですが、2000年ごろからピレスロイドに耐性を持つトコジラミが現れました。いわゆる『スーパートコジラミ』です。そうなると、通常の殺虫処置では駆除できない。そして2010年ごろまでには世界中に拡散しました。日本では2003年ごろから観光立国としての取り組みが始まりましたから国内でも次第に広がって、各地の宿泊施設だけでなく、一般家庭でも見つかる、ということがコロナ禍の直前までにすでに起きていたんですよ」 繁殖力も恐るべきものだ。 「皆さん、おそらく勘違いしているんですが、昆虫はペアの状態で増えるんじゃないんです。例外はありますが、メスはオスと1回交尾すれば、生涯卵を産めるんですよ。哺乳動物みたいに毎回、交尾をする必要がありません。メスは100個とか200個の卵を産み続けられますから、交尾済みのメスが1匹持ち込まれるだけで、その部屋は数カ月後には巣窟になります。ホテル側の掃除が足りないとか、不衛生というものではない。昼間は隙間に潜んでいますから、頻繁にリネン交換をしていても排除できない」 聞いていて背中がぞわぞわして落ち着かなくなる。夏秋さんはトコジラミの患者を診察して宿泊施設での被害がわかると、その施設に電話するのだという。 「自分の身分も名前も明らかにして、『診察した患者さんがそちらに宿泊したときにトコジラミに刺されたとしか思えないのです。もし違っていたら申し訳ないですが、一度チェックしていただけませんか』。すると何日かのちに、『いました。さっそく駆除しました。ありがとうございました』という報告をいただきます」