人流復活で増えるトコジラミ「深刻に捉えすぎず、冷静に対策を」 自ら刺されて図鑑を作った皮膚科医 #なぜ話題
とはいえ、やはり実際に自分で刺されるのはかなり勇気がいるのではないだろうか。 「以前から、刺された直後の患部とか、翌日、翌々日の途中経過が見たかったんです。触れた瞬間どんな感覚で、どんな症状が現れて、ピークはいつごろ、楽になって治るのはいつごろか。これが全てわかるのは自分で刺されるしかない。研究者はみんな真実を知りたいという情熱はあると思いますよ。まあ、それを実際に自分の皮膚でやってしまうのが僕のマッドなところなんでしょうが(笑)」 「刺されるための虫は自分で選んで、皮膚に乗せて、ときには押し付けます。『痛て! これくらい痛いんや』とわかる。場所は右手で撮影用のカメラを持つので左うでと両太もも。ただ、マッドでも『これは命にかかわるからダメ』という線引きはあるんですよ。たとえばスズメバチは本当に生命の危険があるので避けています」
虫に刺されると命の危険も 「わざと刺されることは絶対にしないで」
虫は皮膚の上に乗ったからといって、簡単に刺してはくれないものもある。温度や湿度、明るさの条件などで、虫なりに「ここ」というポイントがあるらしい。 「いちばん手こずったのはイヨシロオビアブですかね。皮膚に乗せてもウロウロ歩くだけで刺さないんですよ。採集は簡単なんだけれど、こっちの都合で『刺してちょうだい』といっても刺さない。結局初版では症例写真が撮影できなかったので、掲載することができませんでした。それが今回の第2版の制作では狙いどおり刺してくれたんですよ。『よっしゃあ』と叫びましたね(笑)。痛いんですけれど、10年越しの夢がかなった嬉しさのほうが勝っちゃった(笑)」
ちなみに実際に刺したり咬まれたりしたなかで、もっとも痛かった虫はムカデだそう。家族と里帰り中の実家で深夜、咬まれた。 「あまりの激痛で跳び起きて、思わずたたいて処分しました。この本のためでも、もう二度と自分の皮膚の上に乗せるのはご免ですね」 好奇心旺盛な専門家ですら我を失う痛さ……想像するだけでも怖い。 夏秋さんの仕事は我々の生活に大きく貢献してくれている。とはいえ、それは専門家だからこそ、できるもの。夏秋さんからのお願いがある。 「私の真似をしてわざと刺されるようなことは絶対にしないでほしい。素人判断でやると非常に危険で、いずれ重大な被害が起きることも予想されます。どんな虫がどのように危険か、という正しい認識を持ってほしいです」 --- 神田憲行(かんだ・のりゆき) 1963年、大阪市生まれ。関西大学法学部卒業。師匠はジャーナリストの故・黒田清氏。昭和からフリーライターの仕事を始めて現在に至る。主な著書に『ハノイの純情、サイゴンの夢』、『横浜vs.PL学園』(共著)、『「謎」の進学校 麻布の教え』、将棋の森信雄一門をテーマにした『一門』など。