少人数、低予算、演技経験不問――米アカデミー賞など受賞相次ぐ、濱口竜介監督の独自性 #ニュースその後
『ドライブ・マイ・カー』をはじめ、数々の作品で国際的に高い評価を受ける濱口竜介監督(45)。これまでに米アカデミー賞と世界三大映画祭(カンヌ、ベルリン、ヴェネツィア)のすべてで受賞を果たした。日本人では黒澤明監督以来の快挙だ。作品の多くが低予算、少人数で制作され、キャスティングは演技経験を問わない。10人ほどのスタッフで作り、裏方の一人が主演を務めた新作は、ヴェネツィア国際映画祭で審査員グランプリに。なぜそんなことができるのか。異例ずくめともいえる独自のスタイルについて聞いた。(撮影:大河内禎/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
少人数、低予算で作る理由は?
「どの賞も、受賞して驚いていますよ」と濱口竜介監督は飄々と言う。この数年の間に、国際的な映画賞を軒並み受賞した。 『ドライブ・マイ・カー』(2021)では、アカデミー賞の国際長編映画賞、カンヌ国際映画祭の脚本賞など4部門。『偶然と想像』(2021)でベルリン国際映画祭の銀熊賞、そして新作『悪は存在しない』(2023)がヴェネツィア国際映画祭の銀獅子賞(いずれも審査員グランプリ)。その他にも各国の映画賞で高く評価され、今や世界の映画ファンが新作を待つ。 初めてカンヌ国際映画祭に正式出品されたのは、『寝ても覚めても』(2018)。この作品が国際的に注目されたことで、気づきがあったという。 「商業映画を手がけるのは初めてでしたし、日本の映画館でかかっていてもおかしくないものを、と自分の軸は保ちつつもドメスティックな作品として作ったつもりでした。その作品がカンヌのコンペに入って、すごく驚きました。その時、自分は映画祭の選定基準なんて何も知らないんだな、と思いました。だったら、今後は自分の価値基準をちゃんと研ぎ澄ませていくことに集中して、映画祭やその先の賞のことはあまり意識しなくてもいいのでは、と」
これまでに監督した作品の大半は、低予算、少人数で制作された。先述の受賞作『偶然と想像』や『悪は存在しない』は、俳優を除くスタッフが10人ほどとかなり少ない。 「少人数のほうが、コミュニケーションが取りやすいという利点は確かにあります。ただ、仮に1億円の制作費をかけたとしたら、回収するためにおそらく最低でも30万人くらいは映画館に来てもらわなければなりません。それくらい見てもらえるように、というか事前にその保証を感じるためには、人に知られている原作や俳優さんじゃないと無理、と多くのプロデューサーが考えるのも当然だとは思います。『偶然と想像』や『悪は存在しない』は自分たちがかけられる程度のお金しかかけられない企画なので、自然と小規模になります」