トヨタ生産方式に新革命「GRファクトリー」稼働開始
トヨタが新しい生産方式をスタートさせました。今までオーダーメイド的な手作業でしか実現し得なかった高精細な組み立てと部品選別的手法のシステム化を達成、生産手法の改革によって、従来あり得ないコストでクルマの高性能化を実現しました。モータージャーナリストの池田直渡氏は「T型フォード以来の生産革命」ではないかと指摘します。池田氏に解説してもらいました。 【動画】トヨタ2029 電動化を最適化する 寺師副社長インタビュー(2)
アルピナを際立たせた部品選別と高精度組み立て
トヨタ自動車はまたもや新たな取組みを始めた。その名は「GRファクトリー」である。愛知県豊田市のトヨタ本社にほぼ隣接する元町工場に新たに作られたその工場の話に入る前にちょっと長い前振りに入る。 アルピナという自動車メーカーの名前を聞いたことがあるだろうか? BMWからホワイトボディ(何も取り付けてない裸のボディ)を買ってきて、自社の専用ジグで精度修正をかけ、そこに装着される部品の検品許容レベルをオリジナルのメーカーの何倍にも引き上げ、かつそれを高精度に組み上げる。そういうメーカーである。 物理的構成要素を見れば、BMWとほぼ変わらないのだが、仕上がったクルマの味わいは全く別物になる。
まあ長い歴史と共に変遷してきたので、アルピナにはだいぶ前からホイールとステッカーで外観だけ仕立てたような“なんちゃって仕様”もあるし、各部をチューンして高出力・高性能にしたモデルもある。カタログで分かりやすい馬力を増やしたクルマだ。 たがしかし、アルピナの本質は部品選別と高精度組み立てである。極論を言えば、馬力が多いかどうかは本質ではない。その中核にあるのはエンジニアが図面に描いた理想の状態を現実化する作業だ。 世の中の量産品というのは、そういうイデアな世界と現実をつなぐ糊代(のりしろ)として妥協が織り込まれており、市場ニーズを満たし、安価に製造するために、設計図の理想値から「このくらいは外れていいよ」という公差を認める必要がある。それは工業製品の宿命であり、責められることではない。実際それを極力排除しようとしたアルピナはオリジナルのBMWの数倍の値段になってしまうのだし、それだけの手間暇をかけても、公差は小さくなっているだけでなくなっているわけではない。 BMWが許容する製造公差(ばらつき)よりはるかに厳しい部品選別をするので、使える部品は少なくなる。当然原価が跳ね上がる。ラインの流れ作業で組み立てていたのでは高精度など夢のまた夢なので、固定したジグにシャシーを安置して、ワンオフ(オーダーメイド)式に職人が手組みする。ここでももちろん原価が跳ね上がる。それが素晴らしい味わいの秘密だし、顎が外れるような価格の理由だ。