トヨタ生産方式に新革命「GRファクトリー」稼働開始
「高精度組み立てと量産」を両立したトヨタ
いや、トヨタの話はどうなった? と言う方。話はここからである。今回何よりも衝撃的なことは、トヨタがアルピナのようなことを始めたのである。 ただし、そこはトヨタ。アルピナのような、ワンオフ的手作り作業はやらない。従来の量産ラインと高精度組み立てを高度に融合させることを徹底して考えた。その結果、年産2万5000台という生産能力を手に入れた。 計算上の数字を見てみよう。2万5000台を12か月で割って2083台/月。それを月間の工場稼働日数20日で割って104台/日。2交代16時間で割って6.5台/時である。つまり1台あたり9.2分になる。アルピナでは、前述の“なんちゃって仕様”も含めて0.9台/時。8時間稼働だろうから、せいぜい7台/日程度だ。しかも高精度組み立てが求められる手作業モデルはその半分以下だろう。
参考までにトヨタの通常生産モデルは1台あたり2~3分。まあ新生産システムでは従来比で3倍以上の時間がかかっているとも言えるが、選別・高精度組み立てがこんなタクトタイム(1台に要する作業時間)でできるなんてことはT型フォードの流れ作業以来の生産革命である。 なんだか余談扱いのようになってしまったが、選別組み立ての方もワンオフとは違う。例えば、トヨタではダンパーの減衰特性を計器で計測して、相性の良い4本を選別して組み立てる方法を取っている。公差の中央値以外は捨ててしまうようなやり方はしない。開発に参加したレーシングドライバーの言だが、こういうやり方で作られたクルマには個体差が極めて少なく「クルマを差し替えた」と教えてもらわない限り、クルマを変えられても気づかないそうだ。その背景としては、もちろん通常の量産モデルなら、車両が変わればその個体差に彼らは気付くという前提がある。
手作りなら2000万円?の高性能車が500万円
話を戻そう。生産改革の話は、言ってみれば「工場制手工業」と「工場制機械工業」の間に、あらたに、次元の異なる高精度の製品を生み出せる「工場制半機械工業」というジャンルを生み出した大発明だ。 ここで生み出されるのはGRヤリスである。トルセン式LSDを備えたトップグレードの「RZ“High performance”(ファーストエディション456万円・受付終了)」と、LSD無しの「RZ(ファーストエディション396万円・受付終了)」に加え、競技前提の装備簡略化モデルの「RC(価格未発表)」とFFの普及モデル「RS(価格未発表)」という4グレードのラインアップになる。なお、9月中旬には発売記念限定車であったファーストエディション以外の通常モデルの詳細が発表になる。新しい工場はずっと稼働しているのでもちろん台数は限定しない。なのでどのグレードであれ、通常モデルであればこれからでも買える。