試練の2020年自動車産業 CO2規制が厳格化「95グラムの壁」
自働車に対する欧州のCO2排出規制が、新時代に突入します。 「パリ協定」の実現を目指すもの「CAFE規制」が2020年から、さらに厳格化されるのです。CAFE(Corporate Average Fuel Economy)とは企業平均燃費とも呼ばれ、自動車メーカーが販売する全モデルの平均燃費を定めて基準を算出し、規制をかける方式です。車種別ではなくメーカー全体を対象とするところがポイントで、メーカー内のさまざまな車種でカバーし合うことが可能な一方、CO2削減に効果的な車種があってもそれが売れなければ意味がないという側面もあります。いわゆるEVを増やせばいいというほど単純な話ではありません。 【図解】HV特許を無償提供するトヨタの真意 そして電動化への誤解 そんな中で自働車各社は、どんな車種に注力するのか、どんな車種を切るのか、難しい判断を迫られることになると、モータージャーナリストの池田直渡氏は指摘します。池田氏に2020年の自働車業界を展望してもらいました。
巨額の罰金
さて2020年、自動車産業全体にとって試練の年がやってきた。温室効果ガスの削減を目的とした代表的な規制である「CAFE規制」は、従来の130グラムから95グラムに引き下げられる。 何のことやら? という人もいるだろうから解説する。この規制によって自動車メーカーは、販売総台数のCO2排出平均値の上限を決められる。規制地域内で売ったクルマ全部のCO2排出量を足し合わせて台数で割る。要するに加重平均だ。
規制値はCO2の排出重量/1台/1キロ走行当たりで算出され、未達成だった場合、1グラムあたり95ユーロ(約1万2000円:1ユーロ127円)のクレジット(性格的には罰金もしくはピグー税《※1》)を徴収される。つまり、CAFE規制の基準値が95グラムに引き下げられるということは、クルマが1キロ走る際に95グラム以下のCO2しか排出してはいけないということで、非常に厳しい内容だ。これを車種ごとではなく、メーカー全体の販売車種の加重平均でクリアすることを求める。 CAFE規制は欧州委員会による取り決めで、欧州でのルールだが、北米や中国、日本など、各エリアの規制は、これまでも先行するCAFEを睨(にら)んで決められてきたし、おそらく今後も似たような規制になるだろう。 例えば規制値より10グラムオーバーしたとすれば1台あたり950ユーロ×地域内全販売台数ということなので、とんでもない金額になる。乱暴な話だが、世界各地域の規制とクレジットが同じだと仮定すると、グローバル300万台規模のメーカーが1台あたり10グラム未達だったとすれば、3600億円の罰金を納めなくてはならない。利益率5%の会社なら売上にして7兆2000億円分が消し飛ぶ。現実には規制の行われないエリアもあるとはいえ、十分以上に企業の浮沈に関わる話である。 (※1)ピグ―税…企業の経済活動が環境など社会(商取引当事者外)に悪影響を及ぼす場合(外部不経済という)に、それらを是正するために企業などに課す税を指す