トヨタ生産方式に新革命「GRファクトリー」稼働開始
最も高価なモデルですら456万円だ。ワンオフで作っていたら2000万円くらいになっていてもおかしくない製品だが、この新たな生産システムによってこのバーゲンプライスを実現したと言える。繰り返すが「ヤリスが456万円もする」という見方では本質を見誤る。「選別・高精度組み立てのクルマが456万円」なのだ。 さて、それではそういうクルマを作れるようになって、トヨタはどうなるか? それはトヨタの中に新たなヒエラルキーができるということだ。従来のヒエラルキーはトヨタとレクサスだった。これはいわゆるプレミアムのヒエラルキー。しかしGRファクトリーの立ち上げによって、おそらくこれと別軸の、高性能の軸が加わる。車種の拡大には時間がかかるかもしれないが、筆者の勝手な想像では、やがてこの2軸はX軸とY軸でマトリックスを構成し、4つのポートフォリオが生まれるはずだ。 もちろんGRラインの製品は従来のようには量産できないが、そこはトヨタ。ビジネスに抜かりはない。量産モデル各車にGRブランドのパフォーマンスパーツを採用した大量生産のスポーツグレードを用意し、さらにディーラーオプションでもGRのドレスアップパーツやパフォーマンスパーツを用意する。それらすべてのイメージアップはGRファクトリーから生み出される選別・高精度組み立ての車両が引き受けるのだ。そもそもGRファクトリー自体がきちんと黒字運営できるように設計されている上に、それら全体で利益を上げる。そして新生産方式による高性能車両群はトヨタ全体のブランドイメージ向上に明らかに寄与するだろう。
「安くて壊れない」から「憧れのブランド」へ
さて、こうして長々と説明してきたGRファクトリーのラインオフ式が8月26日に開催された。 オープニングセレモニーで、工場の入口に設置されたモニタースクリーンを打ち破って入ってきたのはGRヤリス。ドライバーはモリゾウこと、豊田章男社長その人である。
演台の前に停められたGRヤリスを見ると、フロントタイヤがはねた砂利石で、リヤフェンダー前部のフィルムがほとんど剥げ落ちてしまっている。実はこのGRヤリスの開発ドライバーを務めたのはモリゾウであり、社長業の激務の合間を縫っては、テストに明け暮れるその熱心さは開発チームが驚くほどであったという。すでに生産に入った現在でも、商品改良のために週に一度は走り込み。ダートで四駆に乗る限り、プロのレーシングドライバーより速いという。速さが全てではないが、エンジニアはその感知能力の鋭さに驚嘆していた。