「鴻海による買収」回避のためホンダとの経営統合に動く日産、だが鴻海からみれば「むしろ好都合」?
■ 日産・ホンダの統合話の陰に、ある日産OBの存在 「日産とホンダが経営統合を検討中」――12月18日、暮れの日本を、そして世界を衝撃のニュースが飛び交った。 【写真】談笑する鴻海精密工業の創設者兼会長の郭台銘氏とシャープの社長兼最高経営責任者(CEO)の高橋興三氏 昨年の新車販売台数で世界6位、394万台、世界6位のホンダと、319万台、世界8位の日産が経営統合すれば、合計して713万台。単純計算すれば、トヨタの1053万台、フォルクスワーゲンの867万台に次いで、世界第3位の巨大自動車メーカーが誕生することになるのだ。 今回の衝撃のニュースについて取材を進めると、あるキーパーソンの名前が浮上した。関潤氏(63歳)である。 1961年生まれ、長崎県の出身で、防衛大学校を卒業後、陸上自衛隊に入隊。だが若くして退官し、日産自動車に入社。2001年から2017年まで同社の社長を務めたカルロス・ゴーン氏に認められ、2014年に日産の中国合弁企業である東風日産の総裁に就任した。その後、ゴーン社長失脚とともに紆余曲折があったが、2019年に日産ナンバー3の副最高執行責任者(副COO)となった。 だがほどなく日産を退社して、日本電産社長に就任した。そして昨年1月、台湾最大の企業である鴻海精密工業(ホンハイ)が、同社のEV(電気自動車)事業部門のCSO(最高戦略責任者)に関氏が就任すると発表したのだ。
■ 日産は「第2のシャープ」か 鴻海の創業者である郭台銘(テリー・ゴウ)元会長は、EV事業への進出に意欲を見せ、MIHコンソーシアムという企業連合を築いてきた。郭元会長は長年、アップル社のiPhoneを製造する中で、「来たる自動車業界の主流となるEV(電気自動車)は走るスマホ」という意識を強くし、それなら自社に強みがあると確信してきたのだ。 もう一つの郭元会長の自信は、「シャープを復活させた」というものだ。2016年、事実上、経営破綻したシャープを3888億円で買収したのが鴻海だった。当時、私が取材した鴻海の幹部は、こう述べていた。 「わが社はもともと、1970年代に日本のテレビのチャンネル装置の下請けを請け負うことから創業した。そのため、郭会長は日本に対して、ひときわ強い思い入れを持っていた。 だから(2016年に)シャープ買収のチャンスが到来した時には、自ら大阪のシャープ本社に赴き、採算度外視で構わないから、何としてもシャープを買収するのだという意欲を見せた。実際、シャープ買収が成立するや、最側近の戴正呉副総裁を社長として派遣した。そして、破綻していたシャープの経営をV字回復させたことは、大きな自信になっている」 この幹部は現在、すでに退職している。今回、改めて「鴻海の野望」について話を聞くと、こう答えた。 「郭元会長が現在、最も強い関心を寄せているのが、自動車産業への進出だ。世界の自動車産業の潮流である『EV(電気自動車)化』は、『走るスマホであり、わが社の強みが最も活かせる。ハード(車体)もソフト(システム)も取りたい』というのが、郭元会長の認識だ。昨年、台湾総統(大統領)になるという野望を果たせなかった郭元会長は、現在、『台湾のイーロン・マスク』を目指しているのだ。 そんな中で再度、『第2のシャープ』を日本に探し求めたのだ。幸いいまは、未曽有の円安なので、2016年にシャープを買収した時に比べても、日本企業の買収は『格安』だ。そこで、かつてのシャープのように、世界有数の技術を有しながら、経営危機に陥っている日産に目を付けたのだ。元日産ナンバー3である関氏を招聘したのも、その布石だった」