「1・6」アメリカ議事堂襲撃事件 「白人の暴動」が意味するものとは?
アメリカ大統領選で勝利した民主党のジョー・バイデン氏が1月20日、第46代アメリカ大統領に就任しました。就任式の約2週間前には、トランプ氏の支持者たちが議事堂を一時占拠する事件が発生。厳戒態勢の中での船出となりました。 「銃の民主主義」 アメリカ大統領選挙がわたしたちに教えたもの 建築家で、文化論に関する多数の著書で知られる名古屋工業大学名誉教授・若山滋氏は、トランプ支持者たちが起こしたこの事件について「アメリカのみならず人類の歴史にも何らかの意味を投げかけているのではないか」といいます。若山氏が独自の「文化力学」的な視点から論じます。
白人の暴動
さる1月6日のトランプ支持者たちによるアメリカ議事堂乱入は、われわれ日本人が思う以上に大きな意味をもつ事件だったようだ。今後、1・6暴動は9・11テロと同様、「日付」で記憶されるようになるかもしれない。議会への攻撃は、普通のデモとは違って暴力による民主主義体制の転覆につながる。あるアメリカ政治の専門家は、これでトランプという人物は表舞台から消えるだろうという。しかしトランプを支持した人々の心情が消えることはなく、アメリカ社会の分断は続くだろうともいう。 そしてこの事件の特徴は、暴動の主役が、アメリカの歴史においてこれまでどちらかといえば権力の側にあった白人(曖昧な表現であるが)によるものであったということである。このことは、アメリカのみならず人類の歴史にも何らかの意味を投げかけているのではないだろうか。
アメリカの歴史における三つの時代
アメリカの歴史は、その経済体制の変遷から大きく三つの時代に分けることができるように思う。 第1に「開拓者と奴隷の時代」、第2に「工業資本主義の時代」、第3に「デジタル産業の時代」である。そしてその時代に応じて、権力の側とそれに対抗する側が、「人種」と「階級と思想」と「教育(知的発展)」の絡んだ闘争を続けてきたのだ。 第1(開拓者と奴隷)の時代は16世紀~18世紀である。大量のヨーロッパ人が海を渡り、彼らが「新大陸」と呼んだ広大な土地を、彼らが「インド人」と呼んだ先住民を追いやりながら開拓していった。そしてアフリカの西岸で捕らえた黒人を運搬して奴隷とし、主に南部の綿畑で働かせた。独立を経て南北戦争に至るまで、アメリカの経済は開拓者と黒人奴隷の労働によって支えられてきたといえる。 この時代、安価な労働力として酷使された黒人奴隷たちは、たびたび暴動を起こした。もちろん白人による暴力事件も多かったのであるが、それは権力側の暴力であり、暴動というより「暴虐=リンチ(私刑)」と呼ばれるべきものではないか。この時代のアメリカ社会の格差は、奴隷(黒人)と主人(白人)の格差であった。