新型コロナ「mRNAワクチン」生んだ2つの発見 30年来の研究がつながる
今年もノーベル賞の季節がやってきました。10月4日(日本時間)の「生理学・医学賞」を皮切りに「物理学賞」(5日)、「化学賞」(6日)と連日発表されます。 【表】新型コロナ「抗原検査」「抗体検査」「PCR検査」それぞれの違いは? これに合わせて、日本科学未来館の科学コミュニケーターの皆さんに3回連載で注目の研究や各賞の歴史を紹介してもらいます。第1回は「生理学・医学賞」の分野を取り上げます。科学者たちの長きにわたる努力と探究心によって、ノーベル賞の受賞が期待される研究はたくさんあります。その中から新型コロナウイルスのワクチン開発につながった2つの重要な研究をお伝えします。
そもそも「RNA」って何? どんな役割なの?
はじめに、mRNAとは一体何でしょう。 私たちの体の細胞の核一つひとつには、「DNA(デオキシリボ核酸)」と呼ばれる遺伝情報を持つ物質が含まれています。基本的にはこのDNAを型枠にして作られるのが「RNA(リボ核酸)」です。DNAとRNAは「リン酸、糖、塩基」が1つのユニットとして連なっています。DNAが「二重らせん構造」を取るひも状の分子であることはよく知られていますが、RNAは様々な種類があり、数ユニットからなる短いRNAもあれば、たくさんのユニットが連なり大きな分子となったRNAもあります。 そのうち、メッセンジャーRNA(mRNA)と呼ばれるRNAが、DNAの持つ遺伝情報を細胞の核の外に持ち出す情報伝達の働きをします。核内に収納されたDNAから必要な情報だけをmRNAに写し取り、核の外に持ち出すのです。持ち出された情報からたくさんのアミノ酸が並べられ、タンパク質が作られます。 体のすべての情報(DNA)から、必要なところだけ写し取って持ち出し(mRNA)、目的のタンパク質を合成し、タンパク質が体の中でさまざまな機能を実現するというこの仕組みはなんと、地球上の生き物みんなに共通のものです。 この仕組みを利用すれば、DNAに書かれていない情報でもmRNAがあれば特定のタンパク質を体の中で作らせることができるのではないか。mRNAをもとに体の中で有用なタンパク質を作ることができれば、医薬品として利用できるのではないか。このアイデア自体は昔から考えられていて、1990年にマウスの筋肉に人工のmRNAを投与した研究が報告されています。しかし、この研究がすぐにいろいろな病気の治療法の開発に結びついたわけではありませんでした。 RNAには医薬品として体に投与するのに適さない2つの性質があったためです。この性質を克服し、RNAを医薬品として使う上で必須となる発見をしたのが、当時、米ペンシルバニア大学で研究していたカリコー博士とワイスマン博士です。