鹿島の内田篤人が最後まで貫いた美学…”奇跡ラストマッチ”の感動スピーチで明かした32歳で電撃引退した理由とは?
敵陣に入ったあたりの右タッチライン際から、反対側のサイドへ滞空時間の長いクロスを送った。ガンバの選手たちの警戒心は、アントラーズの4人が集まっていた、ペナルティーエリアの左角あたりに注がれる。そして、FW上田綺世とガンバのキャプテン、DF三浦弦太が空中で激しく競り合った。 イーブンに映ったこぼれ球に、誰よりも早くアントラーズのFW土居聖真が反応。ヘディングで繋がれたボールを、DF杉岡大暉が左前方にいた高卒ルーキー、MF荒木遼太郎(東福岡)へはたく。素早く前を向いた荒木は、利き足とは逆の左足で緩やかなクロスをファーサイドへ送った。 土壇場で左右に振られたガンバの守りは、完全に揺さぶられていた。ゴール前にいた同じく高卒ルーキーのFW染野唯月(尚志)はDFキム・ヨングォンがマークするも、疎かになっていたファーサイドには身長175cmのDF藤春廣輝がいるだけ。完全なるエアポケットが生じていた。 次の瞬間、クロスの落下点へ「39番」が走り込んでくる。内田へパスを預け、自らの判断でそのまま前方へスプリントしていた身長182cmのセンターバック、犬飼智也が藤春とのミスマッチを意識しながら宙高くジャンプ。頭ひとつ抜け出した、打点の高いヘディングを一閃した。 「勝ってお疲れさまと言いたかった。本当にいっぱい学んだので……また成長した姿を見せたい」 内田を起点にして生まれた奇跡の同点ゴール。内田と同じ2018シーズンに清水エスパルスから加入した、27歳の犬飼が嬉しさよりも勝てなかった無念さと内田への感謝の思いから涙で声を途切れさせれば、目を赤く腫らしたザーゴ監督のポルトガル語を訳す高井蘭童通訳も号泣した。 「私は付き合いが短いが、彼がどれだけクラブ、サポーターに愛されているのかはわかる。日本のサッカーとアントラーズのためにやり尽くした彼の気持ちを私たちがくみ取り、彼がこれから歩んでいく人生に、多くの幸せがあることを願っています」 もっともスピーチを終え、アントラーズのユニフォームを着た長女、シャルケのそれを着たオムツが外れていない長男とともに場内を一周した内田は、クールな一面を取り戻していた。 ガンバの宮本監督をはじめとする、引退を惜しむ声に感謝しながらも「自分のなかでは、もっとできるはずだと思っているので」と客観的に受け止めた上で、アントラーズに託す思いをこう表現した。 「新しく変わろうとしている鹿島ですけど、負けていいわけじゃない。やっぱり勝ち点3を取らなきゃいけないチームですが、少し時間がかかるのはしょうがない。今日のサッカーを観てもらえればだいぶ押し込んでいたし、上手くコントロールしながらやれるということを示せたのではと思う」