鹿島の内田篤人が最後まで貫いた美学…”奇跡ラストマッチ”の感動スピーチで明かした32歳で電撃引退した理由とは?
ひるがえって自分自身はどうか。右ひざの状態がなかなか上がらず、かばうあまりに他の箇所にも故障が頻発する。選手生命を削りたくても、身体が言うことをきかない。復帰して2年半。理想があるからこそ、自分自身のなかで「引退」の二文字を強く意識するようになったと内田は振り返る。 「(決断は)最近じゃないです。チームメイトに対してやっぱり失礼だなとずっと思っていました。自分が100%でできないなかでチームメイトは一生懸命練習していますし、試合にも出ている。鹿島アントラーズの選手として自分が許せなかった。契約をまっとうするのがプロだと思いますけど、自分のなかで『終わった』と思ったときも、サッカー選手としては終わりなのかな、と」 決意を強化部と今シーズンから指揮を執るザーゴ監督に伝え、同じ1988年生まれながら、早生まれの自分よりも学年がひとつ下のMF遠藤康らの慰留も振り切った。迎えたガンバ戦。チームメイトが内田の象徴でもある「2番」が記されたウエアで、試合前のアップに臨んだ。 新型コロナウイルス禍で上限が5000人に設定されていたチケットも、前売り段階で売り切れた。対するガンバも、2018シーズンまでアントラーズでプレーしたDF昌子源を中心に闘志を高めてくる。3試合ぶりにベンチに入った内田自身が、誰よりも特別な雰囲気を感じていた。 「やっぱり他の選手はやりにくかったんじゃないか、と。いろいろな感情も出てしまうゲームでしたけど、(昌子)源を中心にしっかりとした守備で、ガンバも非常に手強い相手でした」 開始わずか6分には左サイドを崩され、縦へ抜け出したMF倉田秋のクロスを逆サイドから詰めてきたMF小野瀬康介に押し込まれて先制を許す。さらに右サイドバックで先発した広瀬陸斗が、右太もも裏を痛めて離脱。予想よりはるかに早い前半16分に、内田はピッチへと送り出された。 それまでMF三竿健斗が巻いていたキャプテンマークを、ザーゴ監督の指示で託されて魅せた最後の勇姿。ガンバの宮本監督をして「最後にするにはもったいないパフォーマンス」と言わしめた内田が放つ輝きは、5分の目安が示された後半アディショナルタイムの最後にもっとも眩しくなった。