文化庁は内容を批判せず、手続き上の問題だとして補助金の不交付を決めた。だが、脅迫された側の責任を問うなどありえないし、脅迫した側に正当性を与えることになりかねない。だとしたら、そもそもこうした理由は後付けにすぎず、つまり脅迫した側同様、内容についての弾圧だと受け止められても仕方ないのではないか。 内容が理由ではないようにいわば偽装した理屈による後出しじゃんけんのような判断は、高校無償化・就学支援金制度における朝鮮高校の除外の際にも行われており、しかもそれを司法も追認してしまっている。そこにもはや合理的な理由は存在せず、「国民感情」、つまり世論の支持を背景に、それは粛々と行われている。 このように現在、政府が支援制度を恣意的に使って意に沿わないものを思うままに排除できるようになっているのだとしたら、ここは法治国家なのだろうか。しかもそれが支持されているのだとしたら、きわめて深刻な事態だ。
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コメンテータープロフィール
ハン・トンヒョン 1968年東京生まれ。専門はネイションとエスニシティ、マイノリティ・マジョリティの関係やアイデンティティ、差別の問題など。主なフィールドは在日コリアンのことを中心に日本の多文化状況。韓国エンタメにも関心。著書に『チマ・チョゴリ制服の民族誌(エスノグラフィ)』(双風舎,2006.電子版はPitch Communications,2015)、共著に『ポリティカル・コレクトネスからどこへ』(2022,有斐閣)、『韓国映画・ドラマ──わたしたちのおしゃべりの記録 2014~2020』(2021,駒草出版)、『平成史【完全版】』(河出書房新社,2019)など。