牛乳1リットルには牛の血液400リットル必要と学んだ子どもたち 給食の牛乳の飲み残しが激減
4月19日は食育の日。筆者が忘れられない食育の話がある。東京都で学校栄養士をしていた宮島則子(のりこ)先生の食育授業だ。宮島先生は、すでに学校栄養士の職を退職されたが、当時の様子の写真を使って紹介することをご快諾いただいたのでご紹介したい。
2006年に東京都荒川区の小学校で食育実施
宮島先生がこのモーモースクールを実施したのは、2006年1月26日。当時の赴任校だった、東京都荒川区立ひぐらし小学校で実施した。前日は、東京に雪が積もるほどの天気だったが、当日の早朝、教職員が、会場となる校庭の雪かきをした。
当日の午前4時、栃木県の牧場にいる母牛と子牛が出発し、東京の小学校に到着した。
牛の温かみに触れる
子どもたちは、牛の温かい体に手を触れた。
乳搾りをする
子どもたち自身が、搾乳(乳搾り)も体験した。
3年生から6年生の生徒たちは、ミルカーという機械を使っての乳搾りの様子を見た。
酪農家は牛を家族のように思い、命を育てていることを学ぶ
酪農家の人たちは、牛を家族のように思って育てている。牧場の仕事は、命そのものを育てること。そのことを、酪農家自身が、自身の仕事の内容とともに伝えた。
実際に子牛にミルクを飲ませる体験
子どもたちは、子牛にミルクを飲ませる体験も行なった。
乳業メーカーが牛乳の工場について説明
乳業メーカーに来てもらい、牛乳を製造する工場ではどのように作っているのか、その製造工程や、工場の仕組みを説明してもらった。
小学校にやってきた牛の絵を描く
図工の時間として、小学校にやってきた牛の絵を描く授業もおこなった。
牛乳でドーナツ作り
1年生から3年生は、牛乳を使ってドーナツを作った。
4年生から6年生は、バターづくり。
牛乳からできる製品には、バターのほかにも多くあることを学んだ。
いちごのロールケーキも作った。
牛乳1リットルは牛の血液400リットルから生まれる
牛乳1リットルを作るためには、なんと、牛の血液が400リットル必要と言われる。子どもたちにそれを伝えるため、小学校では、赤い絵の具を溶いた水を入れた2リットルのペットボトル200本を用意し、牛乳は、モノではなく、牛の命(血液)からいただいている、ということを子どもたちに伝えた。
それを学んだ子どもたちは、学校給食で出る牛乳を飲み残ししなくなったそうだ。
宮島先生のモーモースクールを体験し「いのちの授業」を4人の教員が実践
宮島則子先生は、この酪農教育の実践を通して、ご自身の人生が大きく変わったという。このモーモースクールは、校長先生はじめ、1年生から6年生まで、全校あげての取り組みだった。先生方の協力なしには始まらない。この「いのちの授業」を体験したことによって、ひぐらし小学校から異動してから、同じような授業を実践した教員が4人もいたそうだ。まさに、宮島先生の魂こめた授業がほかの教員にまで伝播したということだろう。
宮島先生は、ひぐらし小学校のあと、別の小学校に異動した。その小学校では、ヤギやうさぎを飼育しており、ある小学校2年生の女の子は、ヤギやウサギを通して仲良くしていた。彼女のことを、宮島先生は「動物好きだから、将来、獣医さんがむいている」と励ましてきたところ、なんと、2021年4月から、北海道の酪農系の大学の獣医学部に進学するそうだ。これこそ、教員冥利につきる話だと思う。
感情に訴えることが必要
先日、ある資格の更新講座を受けていたところ、「コミュニケーションの三大誤解」という言葉があった。
こちらの話はそのまま伝わっている
正しいことを言えば納得する
納得したら正しい行動をする
宮島先生の行なった食育授業は、ただ座学で「牛乳を残さないで飲みましょう」と正論を教えたのではなく、食べ物や飲み物は命からいただいているということを360度方向から伝えたもので、子どもたちの感情を揺さぶるものだった。だからこそ、学校給食の牛乳の飲み残しは激減したし、教員たちは同じような「いのちの授業」をしたし、小学2年生は動物に関わる仕事に向けて進学した。本当に素晴らしい食育授業で、食育を通り越して「生きる力を教える教育」だと思う。