シリアで宗教主義体制の拒否と女性の自由を訴える初の「反体制(?)」デモに数千人が参加
シリアで12月19日、バッシャール・アサド政権が崩壊して以降初となる「反体制」デモが発生した。
「反体制」という表現はやや誇張かもしれないが、12月8日に首都ダマスカスを制圧したシャーム解放機構(旧シャームの民のヌスラ戦線、「シリアのアル=カーイダ」)やこれを支持する人々の意向に必ずしも沿っているとは言えないデモが行われたのだ。
デモを呼び掛けたのは、「市民青年連合」を名乗る活動家のグループである。彼らはSNSなどを通じて、首都ダマスカスのウマウィーイーン広場に面するオペラ劇場(アサド文化芸術劇場)への参集を呼びかけた。
英国を拠点とするシリア人権監視団によると、女性、学生、法律家、労働者など数千人が参加、AFPも数百人が参加したと伝えた。
デモ参加者らは、「我々は宗教主義(ディーノクラーティーヤ)ではなく、民主主義(ディームクラーティーヤ)を望む」、「法治国家、市民国家に向かって」、「自由な女性なくして自由な祖国なし」などと書かれた紙を掲げ、「自由で市民のためのシリア」、「我々は宗教主義でなく、民主主義を望む」といったシュプレヒコールを連呼した。
こうした主張の背景は、アル=カーイダの系譜を汲むシャーム解放機構が主導するシリアの新政権が、イスラーム国やアフガニスタンのターリバーン政権のような宗教的に厳格な制度を樹立するかもしれないという不安がある。12月15日に発表された暫定憲法草案には、第2条に「国家の宗教はイスラーム教としつつ、非イスラーム教徒の宗教活動の自由を尊重する」と規定されている。イスラーム教を国教とする規定は、さまざまな宗教・宗派が共存してきたシリアにおいてはこれまで一度も憲法に盛り込まれたことはなかった。
シャーム解放機構の指導者でシリア軍事作戦局総司令部(「攻撃抑止」軍事作戦局)の司令官を務めるアフマド・シャルア(アブー・ムハンマド・ジャウラーニー)は、12月19日に放映されたBBCとのインタビューでこうした不安を払拭するような発言を行っている。だが、BBCの記事は「多くのシリア人は彼を信用していない」と断じている。
これに対して、シリア軍事作戦局総司令部は強制排除などの強硬な対応は行わなかった。同司令部に所属する武装組織のメンバーは、デモ参加者に対して、行き過ぎを慎むよう注意喚起するにとどまった。
シリア軍事作戦局総司令部に掌握されている国営のシリア・アラブ通信は、首都ダマスカスで行われたデモを報じることはなかった。その代わりに、シャーム解放機構の治安部門として、シリア北西部の住民や反対分子の恣意的逮捕や粛清を主導してきたシリア救国内閣法務省傘下の総合治安機関の要員が、目出し帽姿をかぶり機関銃を携帯して、首都ダマスカスなどの治安維持にあたる物々しい様子の画像をアップした。
なお、デモをめぐっては、SNS上で市民青年連合によるとされる声明が拡散された。声明には、12月8日まで使用されていた国旗(赤、白、黒の横縞、緑色の二つの星)をもとにデザインされたエンブレムが掲げられ、以下のような主張が表明されていた。
シリアに関する情報の真偽を調査するサイトのタアッカドは、この声明が捏造されたものだと断定している。とはいえ、シャーム解放機構が目指そうとしている真の国家像が明らかでない状況下において、今回のようなデモがアサド政権の支持者、あるいは旧体制における世俗主義を支持してきた活動家や組織を再活性化させる契機となる可能性を持っていることだけは事実である。