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【ドラフト候補】「給料は半分以下」でも独立Lへ。火の国・下川智隆が成長示すホークス3軍に完投勝利

田尻耕太郎スポーツライター
火の国サラマンダーズ・下川智隆

 福岡ソフトバンクホークスとプロ野球独立リーグ「ヤマエグループ 九州アジアリーグ」の定期交流戦(同リーグ公式戦)が9月2日に熊本市のリブワーク藤崎台球場で行われ、ソフトバンク3軍と火の国サラマンダーズが対戦した。

【9月2日 交流戦 リブワーク藤崎台 605人】

ソフトバンク `000000001 1 

火の国    `00011002× 4

<バッテリー>

【ソ】●田中、佐藤宏、大城、重田――牧原巧、加藤晴

【火】○下川――深草

<本塁打>

なし

<スタメン>

【ソ】8緒方 4伊藤 6桑原 3石塚 5勝連 D藤野 2牧原巧 7シモン 9佐藤航

【火】7松本 D大崎 5仲村 9中山 8アルバレス 6晴樹 3山本 2深草 4高山

<得点経過>

4回裏【火】深草が先制犠飛(火1-0ソ)

5回裏【火】中山が左前適時打(火2-0ソ)

タイムリーを放った火の国サラマンダーズ中山(元ヤクルトスワローズ)
タイムリーを放った火の国サラマンダーズ中山(元ヤクルトスワローズ)

8回裏【火】深草が押し出し四球を選ぶ。高山が左前適時打(火4-0ソ)

9回表【ソ】伊藤の右犠飛で一矢報いる(火4-1ソ)

ソフトバンク・伊藤
ソフトバンク・伊藤

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下川1失点完投で9勝目

 今季2度目の完封目前だった。9回表の1アウトから犠飛を打たれて失点したが、それでもソフトバンクの3軍打線を9回無四球1失点に封じる完投勝利を挙げてみせた。

 火の国サラマンダーズの下川智隆投手だ。

 ほぼ危なげない内容だった。8回まで90球の省エネで、許した安打は2本のみだった。「ただ、試合前ブルペンの調子は良くなかったんです。ただ、僕の場合はそれを参考にはしないんですけど、実際に試合に入ってもいつもよりも球速が4、5キロ遅くて」

 普段は150キロに迫る直球を投げるが、140キロ台前半から中盤。カットボールも普段より遅かった。

「だからこそ、丁寧に、そして(捕手の)深草のリードを信じて投げました」

インコースを軸にできる投球術

 7月下旬の大分戦では10失点するなど一時不調に陥ったが、8月になると13日の北九州下関フェニックス戦で今季初完封を飾るなど調子を上げていた。この日の完投勝利で自身4連勝。今季9勝目をマークした。

「右打者のインコースをしっかり攻めることができた。今はそこを投球の軸にしています。内角を突くのは苦じゃないし、ストレートだけじゃなくてツーシームも投げます。それでカットボールも有効だったと思います」

 本来の球ではないと感じて投げていたが、結果的に今季最多の11奪三振もマークした。

 下川は昨年まで社会人・伏木海陸運送でプレー。昨年秋のドラフトではNPB3球団から調査書が届いたが指名漏れした。

「社会人野球で素晴らしい経験もさせてもらいましたが、仕事をしながら野球をするのではなく、本当に野球漬けの日々を送る中で勝負をしてみたかった。火の国は馬原(孝浩)さんが監督、藤岡(好明)さんがコーチにいるのも自分の中では大きかった。NPBドラフトへ自分の中では1年勝負のつもりです」

 独立リーグに来て、給料は社会人時代より半分以下になったという。それでも自分の可能性を信じ、今の境地に足を踏み入れた。

佐賀出身の右腕

 もともと九州の人間だ。佐賀県出身。佐賀学園高校から久留米工業大学を経て社会人入りした。

「もともとはホークスファンです。だからソフトバンクを相手に投げるのは感慨深かったですし、今日は応援団の方も来られていて懐かしい選手の応援歌も流していて、なんだか嬉しくて僕にとっては力になりました」

両チームの応援合戦で非常にいい雰囲気だった
両チームの応援合戦で非常にいい雰囲気だった

 この日は3軍戦にもかかわらず応援団が駆けつけた。城島健司や柴原洋らの現役時代の応援歌を流して声援を送っていたのだが、火の国には九州出身選手も多く、下川以外からも「テンションが上がります」「子供の頃にテレビ越しに聞いていました」との声が聞かれた。

 話題を下川に戻す。この完投勝利で9勝目を挙げた。

「今年は出だしも最悪でした。ただ、去年までは調子が悪いとズルズルいく感じでしたが、今年はそういった中でも状態を戻せたり試合を作れたりする。今日もそんな感じでした。それは社会人時代よりも成長できている部分だと思います」

 10月26日のドラフト会議に向けて、さらにアピールを重ねていく。

下川智隆(しもかわ・ちたか)

24歳、右投右打。背番号16。佐賀県出身。178cm、84kg。佐賀学園高校~久留米工業大学~伏木海陸運送

※写真はすべて筆者撮影

スポーツライター

1978年8月18日生まれ、熊本市出身。法政大学在学時に「スポーツ法政新聞」に所属しマスコミの世界を志す。卒業後、2年半のホークス球団誌編集者を経てフリーに。現在は「Number web」「文春野球」「NewsPicks」にて連載。ホークス球団公式サイトへの寄稿や、デイリースポーツ新聞社特約記者も務める。また、毎年1月には千賀(ソフトバンク)ら数多くのプロ野球選手をはじめソフトボールの上野由岐子投手が参加する「鴻江スポーツアカデミー」合宿の運営サポートをライフワークとしている。2020年は上野投手、菅野投手(巨人)、千賀投手が顔を揃えた。

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