Yahoo!ニュース

ソフトバンク戦力外の小林珠維、投打「二刀流」でトライアウトへ「やれる限りのことを」

田尻耕太郎スポーツライター
バットとグラブを手に、トライアウトに向けて練習

 今季限りでソフトバンクから戦力外となった小林珠維が投打の二刀流で、14日に行われる12球団合同トライアウト(ZOZOマリン)に挑む。

 北海道出身の23歳。小学生時代は「北海道日本ハムファイターズJr.」入りして12球団ジュニアトーナメントに出場。中学卒業後は東海大札幌高校で主に投手として活躍した。高校時代から150キロ級の直球を投げる本格派右腕として注目され、投手としてドラフト指名を検討したNPB球団が多かった。一方で打者としても高校通算30本塁打を記録し身体能力が高く、50m5秒9と脚力も光ったことから、ソフトバンクは野手としての将来性を見込んで2019年ドラフト4位で「内野手」として指名した。

 入団後は二遊間を守り強打を期待されたが3年間で一軍出場はなく2022年オフに一旦自由契約となって育成契約に。そのタイミングで“投手再転向”の思いを球団サイドには伝えた。

今季はウエスタンで勝利投手

 ただ球団は打者としての可能性もあきらめておらず4年目は二刀流でプレー。5年目の今季は投手一本で支配下入りを目指した。「昨年に比べて体が投手に適応してきた」と先発として経験を積み、3・4軍の非公式戦では24試合に登板して74イニングを投げて5勝4敗、防御率4.26の成績を残した。2軍公式戦のウエスタン・リーグにも2試合に先発して1勝1敗の成績だった。

打者・小林珠維(2022年6月撮影)
打者・小林珠維(2022年6月撮影)
投手・小林珠維(2023年9月撮影)
投手・小林珠維(2023年9月撮影)

 遠回りをした分、歩みが速かったとはいえない。それでも着実に前進していたのだが、ソフトバンクからは今季限りでの自由契約を通達された。他球団での現役続行を目指し、トライアウトに臨む。

「自分の希望でピッチャーに転向しましたが、(ソフトバンクの)スカウトの方にも『まだバッターで行けるんじゃないか』とずっと言ってもらえていましたし、一度距離を置いて『バッター小林珠維』を自分で見たときに気づきもありました。自分としてやれる限りのことをやりたい」

 あらゆる可能性をアピールしたい。5年間のすべてをぶつけたい。そんな思いから再びバットを握るようになった。

「ピッチャーとして打者と対したときに嫌だなと感じたことを、以前の打者時代の自分はできていなかった。一度客観的になって考えることができたからこそ気づけたことはいくつもあります。力の入れ方とかも。それって投げるのも打つのにも共通する部分がある。最初から力を入れていると、150キロが出るものも145キロくらいで止まってしまうとか。だからバットの出し方、打撃の時の力の入れ方も以前と今では違っています」

読書家の一面も

 入団したばかりの頃は優れた身体能力に頼ったプレーが目立っていた。プロ生活の中で挫折も含めた多くの経験を積む中で考え方も変わってきた。そのキッカケとなったのが読書だ。3年目頃から本を手に取るようになった。「小久保監督もこれは絶対読んでるだろうなと思うときもありました。そこに書いてあったことと小久保監督がチームに落とし込もうとしていることが同じだったことがあったので」。先日引退を表明した和田毅から紹介された一冊に没頭したこともあるし、最近は『数値化の鬼』(安藤広大著)を熟読したそうだ。また、読書を始めたのと同時期に野球ノートをつけるようにもなった。これは水谷瞬(日本ハム=昨年現役ドラフトでソフトバンクから移籍)の影響だった。「ちょっとしたことでも書いておくと、その時の感情も振り返ることができる」。心が整えば自己成長にもつながりやすい。だからこそ、まだユニフォームを脱ぐ思いにはなれない。

「(トライアウトは)変に気張らず、力まず。持っているものしか出せない。やれることを精いっぱいやって、戦力に必要だと声をかけてもらえるのを待ちたいです」

 吉報を信じて、投打の両方でアピールをする。

(※写真はすべて筆者撮影)

スポーツライター

1978年8月18日生まれ、熊本市出身。法政大学在学時に「スポーツ法政新聞」に所属しマスコミの世界を志す。卒業後、2年半のホークス球団誌編集者を経てフリーに。「Number web」でのコラム連載のほかデイリースポーツ新聞社特約記者も務める。2024年、46歳でホークス取材歴23年に。 また、毎年1月には数多くのプロ野球選手をはじめソフトボールの上野由岐子投手が参加する「鴻江スポーツアカデミー」合宿の運営サポートをライフワークとしている。

田尻耕太郎の最近の記事