シリアにおけるイスラーム教法曹界の最高権威が難民を卑下するようなコーラン解釈を行って解任か?
大ムフティーのハッスーン師解任
シリア国外で活動する主要な反体制派メディアは11月15日、シリアのイスラーム法教法曹界における最高権威である大ムフティー(正式名はシリア・アラブ共和国大ムフティー)のアフマド・バドルッディーン・ハッスーン師が解任されたと伝えた。
ムフティーとは、イスラーム法(シャリーア)の規定に関して法学裁定(ファトワー)を発する権限を有する法学者のこと。シリアでは、宗教関係(ワクフ)省が任免権を持つ。大ムフティーは、県、都市などの地方自治体などにおけるムフティーたちの頂点に位置している。
ハッスーン師(1949年、アレッポ市生まれ)は、2005年から大ムフティーの職を務めていた。宗教関係省が15日に発出した決定によると、ハッスーン師は定年を迎え、また同省の職務について2018年法律第31号(2018年10月12日施行)が定める任期を終えていたために解任された。ハッスーン師は2021年10月25日に任期を終了していた。
物議を醸しだしたコーラン解釈
だが、ハッスーン師をめぐっては、11月10日に行われた歌手サバーフ・ファフリー氏(11月2日死去)の弔問会で、シリア難民(そして国外にいる反体制活動家)を卑下するような発言をしたことで、物議が醸し出されていた。
ハッスーン師は弔問会の席上でコーランの無花果章(第95章)について、次のような「逸脱した解釈(タフスィール)」を行ったのである。
このコーラン解釈に関して、イスラーム法学(フィクフ)科学評議会は11月11日に宗教関係省の公式サイトを通じて声明を出し、逸脱したものだとの見解を示していた。
大ムフティー職の廃止
宗教関係省と大ムフティーの意見の相違、そして対立は、シリアにおいて異例中の異例だった。それゆえ、問題はハッスーン師の解任だけにとどまらなかった。
アサド大統領は11月15日、2021年法令第28号を施行し、2018年法律第31号を一部改正し、フィクフ科学評議会の権限を強化するとともに、大ムフティー職そのものを廃止したのである。
2021年法令第28号の内容(全文)は以下の通りである。
削除された第35条は、大ムフティーの役職について以下の通り規定していた。
(改正前の2018年法律第31号はhttp://www.sana.sy/?p=827604、改正後の同法はhttp://www.sana.sy/?p=827604で全文(原文)が公開されている。)
この法改正は、国外で暮らすシリアの人々を見下すような発言をしたハッスーン師に対する毅然たる姿勢を示すとともに、ハッスーン師とフィクフ科学評議会の対立において後者に軍配を上げることで、シリアの宗教権威の足並みの乱れを解消し、同様の混乱が生じることを回避することを狙ったものだと言える。