ロシアのウクライナ侵攻で求められる各国のリーダーシップ、プーチンの戦略的誤りとは
ロシアのウクライナ侵攻、スウェーデンやフィンランドのNATO加盟をめぐって、北大西洋条約機構(NATO)のイェンス・ストルテンベルグ事務総長の名前を見聞きしない日はなくなった。
ストルテンベルグ事務総長はノルウェー元首相であり、ノルウェー現地では人気の政治家でもある。
ノーベル平和賞の授賞式が12月10に迫る直前、オスロ大学のアウラ講堂ではストルテンベルグ事務総長を招いてのトークショーが開催されていた。クリスマス前なので本人がノルウェーに一時帰国していることは不思議ではないが、ロシアのウクライナ侵攻を巡り、事務総長の口から直接現状を聞きたいと、市民からも参加申し込みは殺到。イベント開催が発表されてからすぐにチケットは完売した。
ノーベル平和賞ウィークでもあり、平和と戦争、欧州のこれからについて関心が高まる中、ストルテンベルグ事務総長は何を語ったのだろうか。
NATO事務総長に就任することが打診された2014年当時、ノルウェーで政治家だった父親から「仕事場では何も起きない」「年金生活に入るまで」のんびり時間を過ごせるというアドバイスを受けていたこと、このような未曽有の事態でリーダーシップをとることになるとはだれも予想もしていなかったと話した。
それでもロシアがウクライナ侵攻を開始したと聞いた時、「NATOは驚かなかった。私も驚かなかった。世界も驚くべきではなかった」「驚いている人がいることに、私はむしろ驚いた」と、このような事態になる予兆はすでに出ていたと話す。
ゼレンスキー大統領とプーチン大統領のリーダーとしての器をどうみるか
ロシアとウクライナで対照的なふたりの大統領。ストルテンベルグ事務総長はウクライナのゼレンスキー大統領のリーダーシップは「見事だ」と高く評価した。
「ほかにどういう決断ができたのか」と今では修正できない過去の決断を問う質問も出たが、「ウクライナの人々が選んだ道を尊重すべきだ」と話す。
事務総長「リーダーとしてのプーチンの戦略的誤りは『ウクライナ侵攻が2日で完了できると思い込んだ』こと、『ウクライナ国民やウクライナをサポートする他国の民主主義の能力を過小評価していた』ことです」
ウクライナ支援=各国の防衛対策となる
「ウクライナも完ぺきな民主国家ではありませんが、『民主的で自立した国家としてウクライナが生き延びる』ことが最優先課題であり、家族としてサポートし続けることが各国の防衛策につながります」
「プーチンは光熱費が上がる『お金がかかる寒い冬』を武器として利用しているからこそ、西洋諸国が連帯する必要があるのです」
ウクライナ支援は金銭的負担がかかるが、支援をしなければ「軍事力を行使すればいいのだ」とプーチンに教えることになり、どの国にも危険を意味していたこと。しかし、NATOが直接的な軍事支援をウクライナにしないことに対しては「そうしていれば本格的な戦争になっている」と説明した。
「私たちみんなにできることは、各国の政治や右派左派の違いがあっても『連帯すること』、ロシアに対して民主主義の連帯を見せることです」
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ストルテンベルグ事務総長は「民主国家」の特長として「自由な報道」という要素も連呼していた。「国境なき記者団」による世界報道自由度ランキングではノルウェーが1位、日本は71位とその差は大きい。
フィンランドのサンナ・マリン首相は、ロシアに依存しすぎたフィンランドの過去
は間違いであり、間違いから学び、正しい投資で自国力を強め、民主的な国々の連携がこれからより重要になるとも話していた。ここでもまた「民主的な国家」が問われた。
今、各国のリーダーたちは「民主的な国」と「そうでない国」という枠組みで語ることがより増えたと筆者は感じる。ロシアのウクライナ侵攻においては「対西洋」の枠組みで語られることが多いが、さまざまな危機が連続する現代で、大国としての日本のリーダーシップにも視線が集まる。
遠い国の出来事としてではなく、今求められる民主的な行動やリーダーシップとは何か、2022年を終える前に今一度考えてみる機会をもってみるのもいいかもしれない。