「魔女の宅急便」のキキ 魔法の力が消える? どうして
宮崎駿監督のアニメ映画「魔女の宅急便」が29日、日本テレビ系の「金曜ロードショー」で放送されます。同作では、キキが空を飛べなくなったり、黒ネコのジジと急に会話ができなくなるシーンがあります。なぜでしょうか。
同作は、童話作家・角野栄子さんの児童文学(福音館書店)が原作です。13歳の誕生日を迎える魔女の子は、満月の夜にひとり立ちさせる風習がある世界。少女・キキは、黒猫のジジと共にホウキに乗って、大都会に下宿し、空を飛べる特技を生かしてお届け物屋さんを始める……という物語です。
なお、製作委員会に「クロネコヤマト」のヤマト運輸が入っており、スタジオジブリでは初の外部持ち込み企画です。同作の人気を受けて、企業イメージがアップしたのは間違いのないところでしょう。
◇キキの魔法は「才能」
キキの魔法について、宮崎監督の「出発点1979~1996」(徳間書店)の中で、作品のインタビューがあります。「この作品で描かれる魔法は、どう解釈すればいいのでしょう。たとえばキキが飛べるといこと、飛べなくなることについては?」と質問があります。宮崎監督は「キキはなぜ飛べると思います? 魔女だからですか?」と逆質問しています。
「映画の中では“血”で飛ぶと言っていますが……」というインタビュアーの答えに対して、宮崎監督は「血っていったい何ですか。親からもらったものでしょう。自分が習得したものじゃないですよね。才能っていうのは、みんなそうなんです」と返して、「無意識で使える時期から、意識的にその力を自分のものにする過程が必要」などと説明しています。
映画のパンフレットの中でも、宮崎監督は、テレビアニメの魔法少女ものについて「少女たちの願望を実現する為(ため)の手立てにすぎません」と告げ、「『魔女の宅急便』での魔法はそんな便利な力ではありません」とバッサリ。そして「この映画での魔法とは、等身大の少女達の誰もが持っている、何らかの才能を意味する限定された力なのです」と言及しています。
確かに魔法という何でもできる便利なものでなく、特殊な「才能」と置き換えれば分かりやすいですね。調子が悪ければ飛べなくなるし、何かの拍子で復活することもあるでしょう。
飛べない理屈(理由)について、宮崎監督は「理屈をつけたからといって、問題が明瞭になるかといったら、決してならないでしょう」と指摘。自身も急に絵が描けなくなることがよくあるとしたうえで、「どうしてそうなるのか。分からないですよ、理屈なんて……。でも、そういうことっていくらでもある」と言及しています。
分かりやすい理由を無理に作り上げるのではなく、「分からない」ことをありのままに受け止めた上で描いているのです。そこに「すごみ」を感じます。
◇黒猫のジジは「もうひとりの自分」
そしてキキと会話ができる黒ネコのジジ。キキは突然、ジジと意思疎通ができなくなるシーンも「なぜ」となるところ。こちらも作中では、誰にも分かるよう説明されていないからです。
しかしプロデューサーの鈴木敏夫さんの著書「天才の思考」(文春新書)で考察があります。「思春期について考える中で、ジジの役割もすごくはっきりしてきました。あれはただのペットではなくて、もうひとりの自分なんですね」と分析しています。ジジとの会話は、自分との対話であり、最後に会話ができなくなるのは、分身は不要になり、キキが町でやっていけるという意味だ……というものです。
考察なので人それぞれでしょうが、ジジと意思疎通ができないことはキキの問題であり“変化”を示すことに異論はないでしょう。そして子供から大人になるということは、世間で生きていくため成長することでもあり、子供らしさ(例えば純真さなど)を失うということ。ジジと会話ができなくなるのは、寂しいことではありますが……。
◇“答え”を明確に描かず
他のジブリ作品も同様「魔女の宅急便」も、老若男女を問わず分かりやすいストーリーです。その一方で、見た人によっては深く考えてしまうシーンが用意されています。要するに見る人の間口は広しつつ、一方でその先の“答え”を意図的に描いていないのです。「紅の豚」の主人公ポルコがなぜブタなのかを、明確に語ってないことと共通しています。
ジブリ作品は、公開から時間が経過しても鑑賞できる普遍性のあるものばかりですが、「魔女の宅急便」はその流れを受け継ぎつつも、精神的にタフな女性たちを描いていて、時代を先取りした感じもありますね。そして地上波で何度放送しても、他の番組に負けない好視聴率を獲得しますね。
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若い世代は自分を重ね、親世代は自分の子を成長を見守るといった具合に、見方が変わるからではないでしょうか。また、人は失うものがあっても、それを乗り越えていける強さがあることを教えてくれるからかもしれません。