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貧困に陥りJK散歩で…。「辛さを感じるアンテナが人より強くて」 中井友望が初主演映画に重ねたもの

斉藤貴志芸能ライター/編集者
撮影/松下茜 ヘア&メイク/横山雷志郎(Yolken) スタイリング/粟野多美子

『少女は卒業しない』など映画出演が相次ぐ中井友望。初主演となる『サーチライト-遊星散歩-』が公開される。父親を亡くし、認知症を発症した母親を抱えて生活が困窮し、JK散歩に足を踏み入れる女子高生を演じた。危うくも健気な役が今回もハマっている。一方、デビューから3年を経て、人としての成長も感じるインタビューとなった。

暑い夏が嬉しくて昼間に散歩してました

――友望さんは以前、「夏が好き。暑いと元気になる」と話されていました。今年の夏くらい暑くても、元気でした?

中井 元気でした。あんなに暑かったのに、昼間に散歩に行ったりしていて。

――そこまで暑く感じなかったわけですか?

中井 いえ、暑いのが嬉しかったんです(笑)。夏はビールもおいしいですからね。

――20歳になって、すぐビールのおいしさがわかるように?

中井 1年後くらいだったと思います。夏に飲んで、ビールはおいしいんだと気づかせてもらいました。

――今年の夏の思い出もできました?

中井 夏っぽいことはできませんでした。お祭りに行きたいなと思っていたんですけど。

――お祭りに行くようなタイプでしたっけ(笑)?

中井 地元では行ってました。人混みはあまり得意じゃないですけど、屋台で食べると、おいしいじゃないですか(笑)。東京のお祭りは、コロナもあったので、まだ行ったことがないんですよね。

冬の夜の撮影でも寒さは感じませんでした

――『サーチライト-遊星散歩-』を撮影したのは、冬だったんですよね。

中井 去年の2月です。みんな「寒かったね」と言いますけど、私は意外と大丈夫だった気がします。普段は冬は絶対、外に出ないんです。寒いとイライラしてしまうので。でも、撮影のときは、そんなこと思いませんでした。

――夜中にパジャマで外に出るシーンもありましたが。

中井 あんなの、寒いはずなんですけどね(笑)。撮ってないときも、寒い感覚はあまりなかったです。

――女優として集中していたから?

中井 今考えたら、そういうことだったのかなと。

――今年、『少女は卒業しない』など出演作が相次いで公開されていますが、撮影もその時期に集中していたんですか?

中井 はい。2022年の最初に『サーチライト』を撮って、春に『少女は卒業しない』や他の作品を撮っていました。

10代特有の絶望感やしんどさを経験し直して

――『少女は卒業しない』のときは「中井さんのままで」と言われたそうですが、『サーチライト』の果歩はまた違うアプローチでした?

中井 「そのままで」とは言われませんでしたけど、特に「こうしてほしい」という話もなかったです。監督の想いと私の想いが共通していたのかなと思います。

――初主演で自分に果歩役が来たのも、腑に落ちていましたか?

中井 私が果歩役に決まってから、脚本の小野(周子)さんが当て書きに近い形で書いてくださったみたいです。面識はなかったんですけど、私のことをたくさん調べてくださって。だから、私ってこういうイメージなんだなと思いました。

――真っ暗な世界にいる感じですか(笑)?

中井 そうですね(笑)。私の中でも認識してました。果歩の気持ちがわかる部分も多かったので、そのイメージは間違ってないと思います。10代に特有の絶望感やしんどさを、果歩を通じてもう一回、自分が経験した感じです。

――友望さんの10代は、学校に馴染めなくて不登校や退学を繰り返していたんですよね。

中井 はい。感情的な部分は「知ってる」ということが多かったです。

考えるより感情が溢れた一瞬の奇跡でした

――一方で、果歩について「抱えているものはありながらもただ普通に、ちゃんと必死に生きようとしている」とコメントされていました。若年性認知症の母親を抱えて貧困に陥る果歩は、傍からは苦境の極みに見えても、本人的にはただ母親を守るだけの感覚でしょうか?

中井 生活は大変ですけど、そんなに重く捉えてはいないのかなと。ただお母さんといたい一心で行動していて、大切なことは忘れてないと思います。忘れかけたときも(同級生の)上野くんが助けてくれて、道を間違えないで良かったです。

――ヤングケアラーやJK散歩について、特に調べもしませんでした?

中井 しなかったです。知らないままの果歩でいいかなと思って。

――そんな中で、泣き叫びながら心情を訴えるシーンは、観ていても胸が張り裂けそうでした。

中井 あの場面はあまり覚えてないんです。「こうしよう」とも「難しいな」とも思ってなくて、そこでの自分がそのまま出た気がします。

――イメージ通りに泣けなかったら……とも考えず?

中井 考えなかったです。今までは考えていたんですけど、その前に感情が溢れていました。

――それは女優として、ひとつの境地ですよね。

中井 言い方が合っているかわかりませんけど、一瞬の奇跡というか。もう1回やれと言われても無理で、あのとき、あの状態の自分=果歩になっていたからできたと、すごく思います。しんどいシーンでしたけど、「お芝居は楽しい」とどこかで感じていました。

自分が人一倍しんどい振りをしていたのかも

――普段はあんなに泣き叫ぶことって、ないですよね?

中井 泣くとしても、誰かにあんなに寄り掛かって感情をぶつけることは、そうないですね。それができるのが、もともと映画に出たいと思った理由のすべてでした。

――10代の頃も泣いてはいませんでした?

中井 1人で泣いてました。悲しいとか悔しいとかでなく、何もなくても、よく泣いていて。

――今は、自分の心情を客観的に見られるような?

中井 人の根本はめちゃくちゃ変わるわけではなくて、私は「しんどい、辛い」と感じるアンテナが人より強いと思うんです。でも、それを黙認できるようになりました。自分のことを黙って認める。時間が解決すると考えたり、自分の機嫌が良くなるために何かしたり。大人になったなと思います(笑)。

――自分の機嫌が良くなるために何をするんですか?

中井 とりあえずお風呂に漬かるとか、お香をたくとか、洗濯機を回してみるとか(笑)。洗濯したら干すしかないから、ちゃんとしようという気持ちになるかもと。あとは散歩をしたり、映画館に行ったりですね。それが10代の頃はできませんでした。

――今できるようになったのは、女優の仕事にやり甲斐を見出したこともあって?

中井 そうですね。この何年かは楽しいですし、逆に、人はみんなしんどいんだとわかりました。自分だけ人一倍しんどいような振りをしていたのかもと、思えるようになりました。

これ以上は失いたくなかったんだろうなと

――劇中の話に戻ると、果歩のお母さんへの接し方は、逆に母親のようにも感じました。

中井 特に2人で一緒に布団に入っているシーンは、お母さんをすごく愛おしく思えました。あと、サーチライトを見て、寝ているお母さんの写真を撮るところも「果歩はこの人が大好きなんだな」と思いました。

――そこもわかる気持ちのひとつでした?

中井 ちょうどこの半年くらい前から、私の母が東京に来て一緒に住むようになったんです。だから、母親との関係性をいろいろ考えました。

――友望さんもお母さんと仲は良いんですか?

中井 仲良しというほどでもないです。母がバリバリ働く仕事人間だったので、一緒にいる時間はなかなか取れませんでした。この映画を撮る前に経験できて、良かったです。

――果歩はお母さんが認知症になる前から、ああいう感じだったと思いますか?

中井 お母さんともお父さんとも仲良かったと思います。だからこそ、このままでいたい。あの頃が戻ってはこなくても、これ以上は失いたくない。それで病院に連れていかないんだろうなと。

無邪気な笑顔のシーンがあって良かったです

――上野くんと川で水を掛け合うところでは、笑顔が見られました。

中井 無邪気でしたね。果歩の笑顔のシーンがあって、良かったなと思いました。

――たぶん果歩はもともと、ああいう子だった気もします。

中井 そうですね。それを取り戻すきっかけをくれたのが上野くんでした。

――5人兄弟の長男でバイトして家計を支える上野くんは、いいヤツですよね。

中井 本当にいい人ですね。上野くん役の山脇(辰哉)くんは、他の作品ではクセのある役や個性的な役をやられていますけど、普通の役をやるとこんなにカッコいいんだと思いました。

――でも、果歩はつれない態度を取ったりも。

中井 それどころではなかったので(笑)。でも、「家族みたい」と真正面から言われて、そんなこと、あるわけないのに何か嬉しくて。果歩の壁が低くなった気がしました。

――唐突に上野くんの両耳をふさいで「聞こえない? 自分の気持ち」と言った果歩の心情は、どう捉えました?

中井 その前に、上野くんが「やりたいことなんてないよ」と言っていて。寄り添ってもらうばかりだったのが、自分も何かしてあげたいと思ったのかもしれない。一歩近づいて、わかり合える人だと感じたのかもしれない。でも、そういうことを考えて演じてはいません。今思うと、そうだったのかなと。

料理はできるほうで健康的になりました

――果歩は料理をするシーンもありましたが、友望さんもするんですか?

中井 わりと作れるほうです。高校生のときも自分でお弁当を作っていた時期があったり、ひとり暮らしもしていたので。

――では、撮影のために包丁の使い方を練習する必要はなくて?

中井 はい。違和感なかったですよね? 良かった。

――普段はどんな料理を作っているんですか?

中井 何でも作れますけど、得意料理を聞かれたら、だし巻き玉子と言っています。だしの良い配分があって、巻くのもめっちゃうまいです(笑)。

――食生活について、昔は「朝はみそ汁、昼と夜はアイス」などと言ってました(笑)。

中井 そんなときもありました(笑)。今も変わらず、みそ汁は作りますけど、普通に健康的になりました。おいしいものを食べたいと思うようにもなって、ごはん屋さんや居酒屋にも行っています。

子どもっぽく話したつもりはありません(笑)

――あと、果歩はお母さんからも上野くんからも「赤ちゃんの匂いがする」と言われていました。

中井 私は言われたことないですけど(笑)、そういう匂いの人は確かにいますね。

――友望さんの話し方も、台詞だからか、子どもっぽい感じがしました。

中井 初めて本読みをしたとき、私は普通に読んでいたつもりだったのが、監督に「16歳の役だから、子どもっぽくしゃべってくれているの?」と聞かれました(笑)。そんなこと、全然考えていなかったのに。自分の話し方はそうなんだと気づきました。

――16歳の役は、そこまで掛け離れている感じはしませんか?

中井 25歳のOL役とかよりは、16歳の高校生役のほうがやりやすいです。気持ち的には、まだ高校生だからかな(笑)

――友望さんも、果歩が上野くんに言われたように、「ほっとけない」と周りから思われていないですか?

中井 そういうイメージの役は多いかもしれないですね。私自身がどう思われているかはわかりませんけど、自分は「ほっといてほしい」というタイプです(笑)。

――でも、友望さんの周りの人は友望さんのことをすごく好きな感じは、何となくします。

中井 私のほうも同じですね。どっちが先でもなく、一回ちゃんと仲良くなった人のことはずっと大事にします。逆に私、ほっとけない友だちが多いです(笑)。

――話を聞いてあげたり?

中井 あと、わかりやすいことだとお店を予約したり、日程を決めたりするのは私です。楽しんでほしい、おもてなしをしてあげたいと思うんです。

いろいろな不安を映画の中に置いてこられました

――初めての主演映画ならではの手応えもありましたか?

中井 お芝居の面でも1人の人間としても、一歩ステップアップできたなと思いました。果歩と一緒に、私もあそこにいろいろな不安を置いてこられた気がします。

――逆に、この作品を撮るまでは不安があったと。

中井 はい。まだ自分の機嫌を取ることもできず、しんどくて家で泣いてました。この作品や『少女は卒業しない』などをやって、ちょっとずつ楽しく生きられるようになって。最初のきっかけが『サーチライト』でした。

――つまり、先ほど出た「大人になった」というのは、『サーチライト』を通じてだったんですね。

中井 そうです。それまでは漠然と不安もあって、今みたいに大人でなかったかもしれません。

映画が好きなので出たい気持ちは強いです

――友望さんは映画女優志向なんですか?

中井 今はたまたま映画が多いですけど、ドラマにも出たいなと思っています。ただ、自分が観る分には映画が好きなので、比べるわけでなく、映画に出たい気持ちは強いです。

――最近はどんな映画を観ました?

中井 『大いなる自由』というドイツの映画がすごく面白かったです。内容は説明しにくいんですけど。

――ちょっとネットで調べると……第2次世界大戦後のドイツで同性愛を禁止する法律のもと、愛する自由を求め続けた男の20年以上にわたる闘いを描いた、という作品ですね。どういう流れで観ようと?

中井 予告で観て、面白そうだなと思って行きました。新しくなった渋谷のBunkamuraで観たんですけど、めっちゃきれいで、座席が前の列と離れていて、脚を全然伸ばせて。それにも感動しました(笑)。

――もともとミニシアター系の映画が好きというお話がありつつ、前回の取材ではマーベル作品を観まくっているということでした。

中井 そっちで言うと『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング』も観ました。大作も好きですし、自分でも両方やりたいです。

たまたま髪が短い時期に撮って今は伸びました

――『サーチライト』の中ではショートだった髪が、今はだいぶ伸びました。

中井 このときはめっちゃ短いですもんね。でも、良かったと思います。16歳っぽくないですか?

――ですね。この作品のために切ったんですか?

中井 全然そんなことなくて、たまたまあのとき、この短さだったんです。それで、今はたまたま伸びています(笑)。

――自分では、どっちが似合うと?

中井 ずっとショートで、長くてもボブくらいだったので、今の長さで人に会うと「大人っぽくなったね」と言われることが多くて。だから、これがいいかもしれないと思っています。

――ちなみに、口元のホクロについてはどう思っていますか?

中井 チャームポイントです。何かの作品で「ホクロで中井さんだと気づきました」と言われたこともありますし、占いだと食べ物に困らないみたいです(笑)。

――充実の2023年も残り3ヵ月を切りましたが、年内にやっておきたいことはありますか?

中井 旅行に行きたいです。広島の有名な海にある厳島神社を見たくて。高尾山にも登りたいですし、行きたいところは多いです。

――そこも昔はインドアな印象があったのが、アクティブになりましたね。

中井 そうなんです。外に出るようになりました。秋は旅行にいい季節で、1人で行きたいです。

撮影/松下茜

Profile

中井友望(なかい・とも)

2000年1月6日生まれ、大阪府出身。

「ミスiD2019」でグランプリ。2020年にドラマ『やめるときも、すこやかなるときも』で女優デビュー。主な出演作は映画『かそけきサンカヨウ』、『シノノメ色の週末』、『少女は卒業しない』、『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』、『炎上する君』など。ドラマ『君には届かない。』(TBS系)に出演中。10月14日より公開の映画『サーチライト-遊星散歩-』で初主演。11月12日から放送・配信のドラマ『OZU~小津安二郎が描いた物語~』(WOWOW)の第三話に出演。

『サーチライト-遊星散歩-』

監督/平波亘 企画・脚本/小野周子

出演/中井友望、山脇辰哉、安藤聖、都丸紗也華、山中崇ほか

10月14日よりK’s cinemaほか全国順次公開

公式HP

(C)2023 「サーチライト-遊星散歩-」製作委員会
(C)2023 「サーチライト-遊星散歩-」製作委員会

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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