『猫の恩返し』一匹の猫にも会わないシーンに理由があった!? 作中に潜む"猫の行動学"
本日、日本テレビ系列でジブリの『猫の恩返し』が夜9時〜10時54分に放送されます。
「3週連続 夏はジブリ」先週は『もののけ姫』でした。今日は、宮崎駿監督が企画を手掛けた冒険ファンタジー『猫の恩返し』です(来週は『風立ちぬ』)。
もやもやした感情を抱えて生きている女子高生のハルが、猫の国に連れて行かれ大冒険をする作品です。
アニメなので、動物行動学が関係あるの?と思われるかもしれませんが、ここには猫の世界が描かれているので、猫の行動学もあるのです。記事には、少しネタばれもあります。真っ白な状態でこの映画を見たい人は、後からこの先を読んでくださいね。それでは『猫の恩返し』における猫の行動学に迫ってみましょう。
なぜ、猫が飼い主にプレゼントをくれるの?
https://www.ghibli.jp/works/baron/ より
ハルは通学の途中に、猫が車に轢かれそうになるところを助けます。そのお礼にと猫がハルにプレゼントを届けるのです。それでは、「なぜ、猫は飼い主にプレゼントを届けるのか?」を見ていきましょう。
庭がある家で飼っていると、小鳥やセミなどを飼い主に届ける猫がよくいます。いくら愛猫がくれたものといっても、息が絶え絶えになった小動物やセミなどをもらっても飼い主は嬉しくないし、どうしたらいいのか悩むところですね。
動物行動学で有名なデズモンド・モリス著『キャット・ウォッチング』によりますと、猫からすれば、飼い主は無能なハンターだと考えられているといいます。この場合は、飼い主は獲物を取ることができない子猫とみなしているので、獲物をプレゼントとして持って帰るのです。
親猫は、子猫がひとりだちしたときに、ネズミや小鳥の取り方を知る必要があるので教えるのです。
どんな猫が一番、獲物を飼い主に届けるか?
一番多く飼い主に贈り物を届けるのは、避妊手術された雌猫です。
理由は、避妊された雌猫は、子猫に獲物の取り方などを教える行動をしていないので、飼い主である人を子猫だと思いこんで、この行為を実行しているのです。
自然界では、母猫は子猫にいきなり生きた小動物を与えるのではなく時間をかけて獲物にならしていきます。
はじめは、母猫は獲物を食べずに子猫のところに持っていきます。そこで母猫は子猫の前で獲物の食べ方を見せます。次の段階では、死んだ獲物を生きているように投げたりして動かして子猫と一緒に遊んで、獲物に対する歯や爪の使い方を教えるのです。最後に、生きた獲物を子猫の前に出して、それを子猫がつかんで食べられるようにします。
猫から獲物をもらった飼い主はどうすればいいの?
『猫の恩返し』の中でハルが猫からプレゼントをもらって、戸惑っています。飼い主もいくら愛猫からだといってもネズミやセミなどをもらって、それらが生きてもがいていたりすると嬉しくなく、反対に尻ごみしますね。
猫からすれば、飼い主に喜んでもらいたのです。そんなときに猫を怒ったりすると、人を理解しにくくなります。
そのため、母親としてふるまっている猫をほめてやり猫をやさしく撫でて獲物を受け取りましょうね。あとで獲物に対処してあげてくださいね。
猫のなわばりとは?
https://www.ghibli.jp/works/baron/ より
『猫の恩返し』の中でハルが、十字街にいる白い大きな猫ムタに猫の事務所を教えてもらう場面があります。人が通る道ではなく、塀や路地を歩いて猫の事務所にたどり着くのです。
ハルと猫のムタが猫の事務所へ行く途中で、一匹の猫にも会わないのです。
『ネコの行動学』パウル・ライハウゼン著によりますと、猫のなわばりは鉄道のようになっていて、お互いに出会わないようになっています。
つまり猫同士の間では、お互いに交通規制があり、猫の視覚的に実行されているようです。1匹の猫が通りを歩いていると、(25メートル~100メートル離れたところ)から、通りを歩いて猫を目で追って、その猫が視野から消えるまで気長に待っているのです。
なるべく2匹がぶつからないようにしています。
しかし、交差点で2匹がぶっかったとき、以前の闘争で負けた猫は、ためらうことなく逃げていきます。
猫のなわばりは、自分のなわばりの中心に近い方が闘争心は強いですが、中心から離れていれば闘争心は弱くなります。
ムタは大きな猫なので、十字街から猫の事務所までをなわばりにしているのでしょうね。
バロンはアビシニアンなのか?
https://www.ghibli.jp/works/baron/ より
『猫の恩返し』の中で重要な役であるバロンは、アビシニアンではないか、と思って見ています。
バロンの外見的特徴
□逆3角形のシャープな小顔
□大きな耳
□アーモンド型のパッチリした目
□目の色がグリーン
□スリムで筋肉質な体
からです。
アビシニアンってどんな猫?
イエネコの中では最古の品種のひとつと言われています。
古代エジプトのパピルスによく似た猫が描かれています。アビシニアンを初めてイギリスに連れてかえったのは、現在のエチオピアから帰還した陸軍大尉の妻だったと考えられています。
診察室でも見ますが綺麗な流線形をした優美な猫ですね。好奇心が旺盛で、届く場所なら高いところに上がって探究をします。野性味のある猫です。そして毛の1本ずつに濃淡があり光っています。
活発なので、診察のときに手こずる子もいますが、最近のアビシニアンは以前の子たちよりずいぶんおとなしくなりました。
コロナ禍で外出自粛が求められています。
生きづらくなった人は、この『猫の恩返し』をご覧になれば、人間界とは違う時間が流れているので、なんだかほっとします。
猫がいま日本で人気ですが、ひょっとしたら必要があれば、愛猫が猫の事務所に連れて行ってくれて猫の世界に行けるかもしれませんね。
そんなことを思わせてくれる映画なので、見終わったあと、素直で明るくなれますよ。今夜、猫の世界を覗いてみませんか。
【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】