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【卓球五輪】男子団体準決勝 スウェーデンに敗れたことの意味 世界は君たちを祝福している

伊藤条太卓球コラムニスト
準決勝でスウェーデンに惜敗した日本男子(写真:ロイター/アフロ)

胸が締め付けられるような敗戦だった。パリ五輪男子団体準決勝、日本vsスウェーデン。

スウェーデンは1960年代に故・荻村伊智朗(世界選手権金メダル12個、第3代国際卓球連盟会長)が指導したことでヨーロッパの覇者となり、1970年代には日本を凌駕する存在となった。1990年代には中国を破って世界卓球界の王座に君臨したが、2000年代に入ってからは低迷した。この趨勢が日本とちょうど逆になっていたため、1990年代以降、日本とスウェーデンが拮抗する時代はなかった。ところがここ数年、スウェーデンが盛り返してきたため、1970年代以来の拮抗する時代を迎えた。

試合前の予想はまさに五分五分だった。第1試合のダブルス、カールソンは2019年世界卓球のダブルスで王楚欽/樊振東(中国)を破って優勝した猛者で、シェルベリも実力者。戸上隼輔/篠塚大登にとってはかなり厳しい相手だった。その上、エースのモーレゴードは今大会で世界ランキング1位の王楚欽を破って銀メダルを獲得している。日本が0-3で負けても不思議ではない相手だった。

篠塚大登(左)と戸上隼輔
篠塚大登(左)と戸上隼輔写真:ロイター/アフロ

しかし試合が始まると、第1試合で戸上/篠塚が素晴らしい活躍でダブルスを取り、第2試合では張本がスーパープレーの連続でモーレゴードを破った。

0-3で負けてもおかしくないスウェーデン相手に2-0でリードしたのだ。水谷、丹羽なき新生ジャパンで初の決勝進出という快挙を目前にし、意識するなと言う方が無理だろう。

その後、戸上、篠塚と惜敗し、勝負の行方はラストの張本vsシェルベリに託された。

決勝進出が目前という浮足立っても仕方のない場面でも、張本は怯まずに打ち続けて2ゲームを先取した。決勝進出まであと1ゲーム。

ここ半年ほどの張本は本当に強く、超人的なバックブロックとフォアのハーフカウンターを駆使する独特のスタイルが完成しつつある。男子シングルス準々決勝では樊振東(中国)にフルゲーム3-4で敗れたが、今大会、樊振東から2ゲームを奪った選手さえ張本の他にはいない。誰もが張本の、そして日本の勝利を確信した。

第2試合でモーレゴードと戦う張本智和
第2試合でモーレゴードと戦う張本智和写真:ロイター/アフロ

しかし、ここから開き直ったシェルベリが捨て身の攻撃を見せる。張本の高速ピッチのボールに対してバック側深くフォアで回り込み「ここでそんなボールを打つのか」「なぜそれが入るのか」というプレーの連続で2ゲームを取り返した。

それはまさに60年前、荻村が守備一辺倒で危険を冒そうとしないスウェーデン選手たちに繰り返し説いた「Take a chance!」の精神だった。

一方の張本は左足に違和感を覚え、トレーナーに手当てをしてもらいながらもシェルベリの猛攻に耐え、とうとうスコアは9-9。

 日本 2-2 スウェーデン

 第5試合 張本 vs シェルベリ

 第5ゲーム 9-9

日本時間で木曜朝3時から始まったこの準決勝。少し早起きして6時過ぎから試合を見た多くの卓球ファンが悶絶したことだろう。

敗れた張本は会見で「死んで楽になるんだったら死にたい」「もう本当に力は残ってない」と語った。

周りがどれほど張本を慰め賞賛したところで張本は自分を責めるだろう。手にしかけたものはあまりにも大きかった。死にたいとまで口にする張本の思いは誰にもわからない。しかし、このどん底の精神状態から這い上がり、銅メダル決定戦に向けて奮起するのが並大抵のことではないことだけはわかる。ある意味でそれは、決勝で中国に立ち向かうよりも困難なことだ。

本日17時から行われる銅メダル決定戦の相手は、ルブラン兄弟を擁する強豪フランス。張本はスウェーデン戦で死んだ。失うものはないはずだ。卓球界は、世界は、この栄光の舞台に立つ者たち全員を祝福している。

卓球コラムニスト

1964年岩手県奥州市生まれ。中学1年から卓球を始め、高校時代に県ベスト8という微妙な戦績を残す。大学時代に卓球ネクラブームの逆風の中「これでもか」というほど卓球に打ち込む。東北大学工学部修士課程修了後、一般企業にて商品設計に従事するも、徐々に卓球への情熱が余り始め、なぜか卓球本の収集を始める。それがきっかけで2004年より専門誌『卓球王国』でコラムの執筆を開始。2018年からフリーとなり、執筆、講演活動に勤しむ。著書『ようこそ卓球地獄へ』『卓球語辞典』他。NHK、日本テレビ、TBS等メディア出演多数。

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