【卓球】世界最強のカットペア 佐藤瞳/橋本帆乃香が世界ランキング1位&3位ペアを撃破!
20日から始まった『WTT男女ファイナルズ福岡2024』の女子ダブルスで、佐藤瞳/橋本帆乃香が大金星を挙げた。中国が誇る世界ランキング1位の孫穎莎と同3位の王芸迪のペアを3-1で下した。
佐藤と橋本は誰もが認める世界最強のカットペア。2人ともボールに激しい後退回転(カット)をかけて相手のミスを誘う「カット型」と呼ばれるスタイルだ。2017年アジア選手権、2019年世界選手権で銅メダルを獲得し、国際大会でも数々の優勝を重ねてきた実力派ペアだが、中国のトップクラスに勝つとなると話は別である。まさに値千金の勝利だ。
しかも驚くべきはその内容で、スコアこそ3-1だったが、完勝といってよい内容だった。中国ペアは佐藤と橋本のカットの回転数を見極められずにミスが目立ち、安全策に出てボールが甘くなったところをすかさず狙い打った。カット型は基本的には守備型であるため、卓球台から4~5メートルも離れたところが定位置だが、チャンスと見るや矢のように前に出て攻撃する様は見事で、エンターテイメントとしても最高の試合だった。
そんな強烈な攻撃力があるなら、カットなどせずに最初からバンバン攻撃した方がよいのではないかと思う人もいるかもしれないが、そうではない。回転数の分かりにくいカットを送っているからこそ相手のボールが甘くなるのであり、そのボールを狙い打つことに特化した攻撃力を備えているのがカット型なのである。だから佐藤も橋本も今流行りのチキータなどはしない。戦術上必要がないからだ。
カットの回転数の変化はカット型の生命線である。その鍵となるのはもちろん打ち方だが、それを相手に悟らせないための工夫も重要だ。ひとつは、打球の瞬間に足で床を「ダン」と打ち鳴らして打球音を相手に聞かせない工夫だ。回転をかけた場合とかけない場合とでは、当て方が違うために打球音がわずかに違う。攻撃選手でもサービスのときにやるが、カット型はこれをラリー中にも要所で行う。相手を脅かすためでも勢い余ってでもない。打球音を消すためなのだ。
もうひとつの工夫がラバーである。佐藤、橋本ともに片面には回転がよくかかる「裏ソフト」、もう片面には回転がかかりにくい「表ソフト」または「粒高」を貼っている。これをラリー中にクルクルと反転しながら相手を攪乱する。ラバーの色は片面が黒、もう片面は黒以外(赤、青、緑、ピンク、紫)とルールで決まっており、どちらが「裏ソフト」なのかは試合前に確認しているので見れば分かるが、分かっていても回転の差があまりに大きいので対応ができない場合が出てくる。
さらに、佐藤は赤が「裏ソフト」であるのに対して橋本は黒が「裏ソフト」という念の入れようだ。卓球のダブルスでは、必ずパートナーと交互に打球し、誰が誰のボールを受けるかはゲーム毎に固定されている。たとえば今回は、孫穎莎は奇数ゲームは佐藤のボールだけを受け、偶数ゲームは橋本のボールだけを受けた。佐藤と橋本のラバーの色が逆であっても、誰のボールを受けるのか分かっているので大した影響はないだろうが、わずかでも相手の混乱を期待できることは何でもやるという執念がこの2人のラバーの色に表れている。
両面に異なる性質のラバーを貼って反転して使用することは、相手も混乱するが実は自分も混乱する。ラバーが違えば打ち方を変えなければ相手のコートに入らないからだ。ラケットの反転状態によって持った手の感触が違うので、その感触とセットとなった独立した2種類の打法の習得が必要となる。これをクリアした上でこの2人はコートに立っているのだ。
こうした攻防は「回転」という目に見えない要素が重大な威力である卓球ならではのものであり、ときにそれが「セコい」「用具偏重だ」と批判されることもある。しかし、その複雑さと深さが、汲めども尽きぬ卓球の魅力のひとつなのもまた事実である。
本日19:10から行われる、銭天一/陳幸同(中国)との準決勝でも、佐藤/橋本はそうした卓球競技ならではの妙技をたっぷりと見せてくれるはずだ。