日産は株式会社としての体を成してない~株主が選任した取締役出席に「会社」が反対する“異常事態”
保釈が許可され、108日ぶりに身柄拘束を解かれたゴーン氏は、裁判所の許可があれば日産の取締役会に出席できるとされたことから、取締役会への出席を裁判所が許可するかどうかが注目された(【ゴーン氏「当然だが画期的な保釈許可決定」で生じる“重大な影響”】)。
3月11日の昼のNHKニュースでは、ゴーン氏が12日の日産取締役会出席の許可を裁判所に求めていることについて、「日産側は出席に反対する意向を検察に伝えている」と報じていた。
しかし、取締役は株主に選任されているのであり、その取締役の出席に、会社(執行部側)は反対できる立場ではない、そのような、会社法的にあり得ない「日産のゴーン氏取締役会出席への反対」を、そのまま報じるNHKに疑問を感じていたところ、同日夕方、東京地裁がゴーン氏の取締役会出席を許可しない決定をしたと報じられた。
朝日新聞ネット記事では、
被告弁護人の弘中惇一郎弁護士は11日夕、記者団に対し、「日産から強い反対があった」ことを明らかにした。
弘中弁護士によると、日産側から取締役会の開催の案内を受けたため、ゴーン被告が取締役としての責任を果たすために出席を希望し、証拠隠滅の恐れを排除するため、地裁には「弁護士も同席して出席したい」旨を申し入れた。
一方、日産側は顧問弁護士を通じ、ゴーン被告の出席について「強硬に反対」する意見書を出したという。主な反対理由については、1)現在の日産としては今後のことを決めるのにゴーン被告は出席してもらう必要がない、2)ゴーン被告の出席により、他の取締役が影響を受け、罪証隠滅の恐れがある、3)ゴーン被告が出席すると議論がしにくい――というもの
としている。
しかし、日産が上記のような意見を提出したというのは、どう考えても理解できない。
1)の「ゴーン氏出席の必要がない」、3)の「ゴーン被告が出席すると議論がしにくい」というのは、日産の執行部として言えることではない。株主に選任された取締役の出席の必要性は、会社執行部が否定できることではない。会社執行部は、取締役会に業務執行を委ねられているのである。その取締役会の一員の出席の要否について意見を言える立場ではない。
2)は「他の取締役が影響を受ける」ということだが、日産の取締役の中でゴーン氏が接触を禁止されている関係者は西川廣人社長だけのはずだ。その西川氏が、「ゴーン氏の取締役会出席によって影響を受け、罪証隠滅の恐れがある」という趣旨であろう。
裁判所は、株主に選任された取締役の、取締役会への出席について「必要性」を否定できる立場ではない。しかし、会社が「出席の必要がない」と意見を述べた場合、それは会社として許されることではないが、会社法上の判断を行う立場ではない刑事裁判所としては、その意見を尊重することになる。
最大の問題は、ゴーン氏の取締役会出席が、関係者の西川氏の公判証言にどう影響するかだ。もし、日産の意見書で、「西川氏は、取締役会でゴーン氏と顔を合わせただけで、心理的圧迫を受け、公判証言ができないと言っている」と述べているのであれば、裁判所としても、公判審理に影響があると判断せざるを得ないであろう。
しかし、ゴーン氏には弁護士が同席し、証拠隠滅の恐れを排除するというのだから、もちろん、ゴーン氏が刑事事件に関する発言などするわけもない。それなのに、「取締役会で顔を合わせるだけで圧迫を受けて公判証言に影響する」と言っているとすれば、西川氏は、今後、ゴーン氏の刑事公判で、ゴーン氏の目の前で証言できるのだろうか。そのような情けないことを言う人間が社長を務めていて、日産という会社は本当に大丈夫なのだろうか。
西川氏は、ゴーン氏逮捕直後の会見で、社内調査の結果、重大な不正が明らかになったゴーン氏に対して「強い憤り」を覚えると述べていた。その時点で西川氏が言っていた「不正」のうち、唯一、検察が起訴事実とした「有価証券報告書虚偽記載」については、西川氏自身が、代表取締役CEOとして有価証券報告書の作成・提出義務を負う立場なのに、西川氏は、逮捕も起訴もされていない(【ゴーン氏「直近3年分再逮捕」なら“西川社長逮捕”は避けられない ~検察捜査「崩壊」の可能性も】)。そういう西川氏にとって、ゴーン氏が取締役会に出てきたら「合わせる顔がない」というのはわかる。しかし、そのような「社長の個人的な後ろめたさ」から、株主に選任された取締役の取締役会出席に、「会社として」反対するということが、株式会社のガバナンス上許されるのであろうか。
西川氏は、また、ゴーン氏逮捕直後の会見で、「社内調査によって、カルロスゴーン本人の主導による重大な不正行為が明らかになった。会社として、これらは断じて容認できないことを確認のうえ、解任の提案を決断した。」と述べていたが、その不正の事実を、ゴーン氏本人が出席する取締役会に報告して解職の議案を出すのではなく、検察に情報提供して逮捕してもらってから、本人がいない臨時取締役会で解職を決議したのである。
日産は、ゴーン氏が保釈され、取締役会への出席の意向を示すや、出席に反対する意見書を提出するという、株式会社として「異常な対応」を行い、ゴーン氏の取締役会出席を回避した。しかし、それによって、日産自動車は、会社法上の規律もガバナンスも機能しておらず、もはや株式会社としての「体を成していない」ことを図らずも露呈したことになる。
今日は、日産取締役会の後、日産・ルノー・三菱自動車の共同記者会見が行われるとのことだ。しかし、この取締役会をめぐる動きは、西川社長の下では日産という会社が立ちいかなくなることを示しているように思える。