大学生のための選挙「ノルウェーでは政治のおしゃべりを歓迎し、自分にも何かできると自覚できる」
オスロ大学では5日、大学生のための議会の代表=「大学生の政治家」を選ぶための選挙の投票日を迎えた。
夕方はオスロの各大学の学生が集まる建物で、開票パーティーが開催された。
ネットなどで結果が一気に公開されるのかと思いきや、オスロ大学のディレクターが高騰で読み上げるというアナログ形式。
各政党の学生たちは、互いの敷地を気にせずに仲良く同じテーブルに座って結果を聞いていたりと、通常の大人たちの選挙や高校の模擬選挙とは異なる風景が垣間見れた。
オスロ大学ディレクターのアーネ・ベンジャミンソンさんは、政治政党とつながりのある「学生政党」がキャンパスにあることは、全く問題視していないと取材で語る。
「ノルウェーではこれが伝統ですから。国や社会をここまで発展させたのは政党です。大学生政治が国会の政党政治を反映しているのは、自然な形。この国ではそれは良いことだと信じられてきましたし、学生議会があることで、より多くの大学生が政治に興味を持ちます」
「大学生議会での経験は、国会で働く時にも役に立ちます。大学生議会で活動していた人の中には国会議員になる人もいますよ。大学から政治家になる人がいつか誕生することに、問題はありません。私たちは政治システムの一部ですから」
大学時代に政治活動に熱心であるほど、就職活動に有利
大学生時代に政治活動に熱心であることは、就職活動にも良い影響を与えるとアーネさんは話した。
「大学時代に政治活動に熱心だったことが問題になったという事例は聞いたことがありません。大学生政治に熱意と率先力をもって取り組む経験があれば、就職活動にはプラスに働きます」
ノルウェーの大学には政治に関わる居場所がある
今回の大学選挙で「緑の党」は2位だった。同党のシャルロット・ヨルトさん(23)は、大学院で日本学を勉強中のお母さん学生だ。
「緑の党の人気の理由は、SNSやキャンパスでスタンドに立ったりと、必死に選挙活動をしていた結果かもしれません。ノルウェーにはグリーンな投票をする大学生も大勢いるので、この人たちは自動的に私たちの政党に投票します。他の政党もグリーン政策は掲げているので気は抜けませんが、今回の選挙では私たちが環境分野では一番だと評価されました」
「緑の党は、環境政策やオスロ大学をもっと身近にする政策に力を入れています。例えば、オスロ大学には病気や疲れた時に休む休憩室がありますが、今は居心地いい環境とは言い難いんです。休憩室を改善したいですね」
日本と比べてノルウェーの大学生はどうして日常的に政治の話をするのか聞いてみた。
シャルロットさん「もともとの雰囲気や環境が違いますね。オスロ大学には学生のための政治や民主機関があるので、政治に興味がある人にとって敷居が低い。日本ではそのような伝統や居場所がないし、なにより日本の政治がノルウェーと大きく違う。日本政治はもっと閉鎖的でお金が関わってくる」
「いつか政治家になりたい。政治に関わって物事をよくすること、抗議をしている人の声を聞いて問題解決する人になりたいと思っています」
「政治の話が楽しくてしかたない」
大学生選挙で最も議席を多く獲得したのは「左翼同盟党」。同党のリーダーである大学院生のエリザベス・ホクスモ・オルセンさん(23)は、人気の理由を「オスロ大学の学生が左派、フェミニスト、環境派の政策を望んだから」と語る。
「私たちが争点としたのは学生への金銭的サポートの増額です。食堂のメニューにCO2排出量記載の導入も求めています」
オスロ大学の大学生選挙は投票率がここ最近は10%台と低い。その理由をエリザベスさんは「コロナ禍でキャンパスに来られない時期があり、議会の存在を知らない人も多いのだろう」と予測する。
「政治の話をするのは大好きで楽しいです。社会の全ては政治だから」
「台湾より自由があって、自分には何かできるのだと自覚できる」
2018年からノルウェーの高校で学び、現在はオスロ大学の正規学生として勉強中だ。
台湾出身の大学2年生ユー・チェン・リン(22)さんは、今回が初めての立候補、政党リスト4番目として当選した。
「台湾では政治はもっとエリートのためのもので、政治家と市民の間には距離があります。台湾の大学には連盟のようなものはありますが行事開催が役割で、ノルウェーのような大学の在り方に影響を与える大学生議会もありません」
「政治で変化を起こすことは台湾ではとても困難なことなのに、ノルウェーはこれも違う。政治のおしゃべりを歓迎する空気がここにはある。だから暮らしていて楽しいです。台湾より自由があって、自分には何かできるのだと自覚できるから」
大学生議会に在籍する間、彼には成し遂げたい目標がある。オスロ大学に中国とのアカデミック協力関係をやめるように圧力をかけることだ。
「中国の人権問題に抗議して、デンマークの大学は中国に対して厳しい対応をしているのに、オスロ大学は協力関係をより強化しています」
この大学選挙運動をしている最中、彼の中には「政治家になってみたいかも」という思いも生まれたそうだ。「ノルウェー国籍を得るには年数がかかるけれど、政党で働くとかしてみたい」とほほ笑んだ。
Text: Asaki Abumi