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マンチェスターシティの参謀が語ったモドリッチ。マドリードをスペイン王者に導いた天才性とは?

小宮良之スポーツライター・小説家
(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

 4月30日、レアル・マドリードは本拠地でエスパニョールを4-0と大差で下し、35度目のリーガエスパニョーラ優勝を決めている。4試合を残してのリーガ制覇で、独走だった。

 フランス代表FWカリム・ベンゼマ、ベルギー代表GKティボー・クルトワの二人が、強力な両輪だったと言えるだろう。ベンゼマは得点だけでなく、前線のプレーメーカーとして、攻撃を担っていた。クルトワは素晴らしいゴールキーピングの数々で、少なくないピンチを救った。二人は今シーズンの欧州サッカーにおけるMVP候補だろう。

 そして「スター軍団」と言われるチームを率いたカルロ・アンチェロッティ監督の功績も忘れてはならない。終盤でくすぶっていたダニ・セバージョスを起用し、チーム戦力を維持したように選手起用で”器の大きさ”が光った。所属選手を分け隔てなく用い、モチベーションをキープ。エデン・アザール、ガレス・ベイル、イスコなど不満分子になりかねない選手へのマネジメントは白眉だった。

 戦術的にも、マルセロを飛び道具のように使い、起用の多くは当たっていた。大敗したクラシコのように、あてが外れた時は自らの責任として背負い込む潔さも見せている。監督としての器量で違いを見せた。

 そして優勝の立役者をもう一人名前を挙げるなら、クロアチア代表MFルカ・モドリッチになるか。

モドリッチの才能

 モドリッチは36歳になるが、衰えは少しも見えない。たとえフィジカル的なパワーやスピードのレベルダウンがあったとしても、それを補って余りある知性と経験がある。どのポジションにいるべきか、何をすべきか、その準備と選択が完ぺきなだけに、敵のアドバンテージを取れるのだ。

 エスパニョール戦、多くの主力が欧州チャンピオンズリーグ(CL)準決勝セカンドレグ、マンチェスター・シティとの決戦に向けて温存される中、モドリッチは堂々、先発で出場している。木綿のような丈夫さで働き、ときめくような魔法を使えるというのか。少なく見積もっても、獅子奮迅の活躍だった。

 一つ一つのプレーにインテリジェンスが横溢としていた。トップ下のような位置でスタートしたが、フリーマンに近かった。流れの中で神出鬼没。右サイドへ流れ、中盤に落ち、プレーの渦を作り出す。彼がボールに触ることで、潤滑にプレーが回った。

 21分、全体として押し込んだところで、中盤やや右でボールを受ける。巧妙に、ギャップに入っている。中でマークを外したマリアーノにクロス。頭を振り過ぎてシュートは外れたが、完璧なお膳立てだった。

 33分、モドリッチは左サイドへ流れ、ボールを受けると、迅速にマルセロへ。マルセロはロドリゴとのワンツーを使って左サイドを破り、最後はロドリゴがゴールを決めた。モドリッチは、左サイドバックの位置を取ることで攻撃を促していた。

 54分、マドリードは押し込まれ、エリア内でエスパニョールの選手が倒れる。ボールを持ったエスパニョールがプレーを切らず、続けるか躊躇したわずかな空白があった。モドリッチは見逃さない。エドゥアルド・カマヴィンガと敵を挟んでボールを奪い取り、ロングカウンターを発動。マルコ・アセンシオの得点につながったわけだが、モドリッチの抜け目のなさ、勝負感が際立っていた。

 モドリッチこそが、サッカーだった。彼個人が戦術になっていた。それほどに、彼はサッカーを知り尽くしている。

シティの参謀が語ったモドリッチ評

「モドリッチは二列目でも三列目でも、プレーのスピードやスタイルを自在に変えられる。場所によって、求められる仕事が変わるのだが、それに適応できる。そういう選手は実は多くはいない」

 かつてヴィッセル神戸を率い、現在はマンチェスター・シティでヘッドコーチを務めるファンマ・リージョ監督はモドリッチの能力を称賛していたことがあった。

「私はモドリッチを十代の頃から見ているが、彼のプレーゾーンはゴール前25メートル四方に広がっている。もしくは、少々後ろに下がっても(例えばアンカーやサイドで)ゲームに関わることを苦にしない。なぜなら、彼はピッチにあるスペースの中で、どう生きるべきか、その術を知っている。多くの選手が同じことができそうだが、実際にそこまでのプレーエリアは持っていない。スペースよりも、常に対峙する選手を必要とし、一対一になる相手がいないと不都合そうに映る選手が多いんだ」

 どこで相手に圧力を懸けるべきか、ファウルを誘うべきか、敵の心情を読みつくしたようなプレーができる。一方で、一撃でゴールにつながるパスも出せるし、CL準々決勝チェルシー戦で見せた右足アウトサイドのパスは芸術として語り草になるだろう。

 モドリッチは変幻自在のプレーヤーだ。

<ピッチでプレーを創り出す>

 その質は極めて高い。正しいポジションを取ってボールを呼び込み、迅速に弾き出し、味方にアドバンテージを与える。必ずいて欲しいところでボールを受け、出して欲しいところに出してくれる。プレスをはめ込む相手を外し、攻撃を円滑に動かす。もはや名人芸だ。

 何より、彼はボールを失わない。その信用があることによって、周りも逡巡なく走り出せる。それが創造的なパスにつながるのだ。

 この点、神戸のMFアンドレス・イニエスタ、FCバルセロナのペドリにも通じるだろう。判断・選択がほとんど無数で無限のスポーツにおいて、時間や空間を操れる。

 5月4日、マドリードは欧州制覇を懸けてシティ戦に挑む。ファーストレグは4-3で敗れている。しかし本拠地での戦いを残し、逆転の可能性は十分にある。

 はたして、モドリッチは何を見せるのか?

 神がかった彼は、誰にも止められない。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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