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マーク・スタンウェイ/フィル・ライノットとマグナムの追想、キングダム・オブ・マッドネスの展望【後編】

山崎智之音楽ライター
Grand Slam 1984 / courtesy Mark Stanway

マーク・スタンウェイへのインタビュー後編。

1983年、シン・リジィのフィル・ライノットが結成したグランド・スラムに参加。CD6枚組アンソロジー『Slam Anthems』に全面参加しているマークだが、1980年から2016年には英国プログレッシヴ・ハード・ロックの名バンド、マグナムのキーボード奏者として活動し、同バンドの黄金期の一端を担ったことで知られる。

前編記事ではグランド・スラム時代について語ってもらったが、今回はさらに掘り下げるのに加えて、マグナムの曲をプレイするキングダム・オブ・マッドネスなど現在の活動、自伝『Close To The Mark』などについて訊いてみたい。

Grand Slam『Slam Anthems』(Cleopatra Records/現在発売中)
Grand Slam『Slam Anthems』(Cleopatra Records/現在発売中)

<ベストな音源を世に出していきたい>

●過去にリリースされたスウェーデンのアーヴェスタやグラスゴーでのライヴ音源は今回『Slam Anthems』に収録されませんでしたが、いずれ『Slam Anthems Vol.2』にも期待して良いでしょうか?

私もそれを願っているんだ。『Slam Anthems』がビジネス的にうまく行けば、“クレオパトラ・レコーズ”が関心を持ってくれるだろう。彼らのリマスタリングによって音質が大幅にアップしているし、とてもハッピーだよ。これは金や名声のためではない。より多くの人にフィルの生み出した音楽を聴いてもらいたいからなんだ。我が家には段ボール箱いっぱいのカセットテープやDATテープがある。フィルはもういないし、オーヴァーダビングなんかは出来ないけど、ベストな音源を世に出していきたいと考えているよ。

●ローレンス・アーチャーが『Slam Anthems』で作曲クレジットされておらず、印税を支払われていないとネットでステートメントを出していますが、実情はどうなっているのでしょうか?

うん、彼がステートメントを出した件は知っているよ。ただ、PPL(フォノグラフィック・パフォーマンス・リミテッド/イギリスの音楽出版管理団体)に登録されている通り彼が関わった曲についてはちゃんと支払いをしているし、どこに不満があるのか判らないんだ。私にだって言い分がある。2016年にローレンスとグランド・スラムを復活させようと話しあって、ライヴをやってからスタジオに入った。私も新曲の曲作りに全面的に関わっていたけど、アルバム(『Hit The Ground』/2019)ではクレジットされていないんだ。印税はもちろん、演奏したギャラももらっていない。正直、不可解だよ。

●2016年のグランド・スラム再結成や2018年にローレンスがキングダム・オブ・マッドネスでプレイした時点で“ズーム・クラブ”などのCDは既に市場に出回っていましたが、彼は不満は漏らしていなかったのですか?

当時は何も言われなかったよ。その後、彼は新しい奥さんと結婚したから、彼女に何か吹き込まれたのかも知れない...判らないよ。彼のことは40年間知っているんだ。彼がメディアに話していることは事実ではないし、本当に残念だ。この件はレコード会社が対応していて、すべてクリアになると信じているよ。

●あなたは1980年から2016年、マグナムの黄金時代を築き上げてきたラインアップの一角でしたが、何故脱退したのでしょうか?

うーん、それは36年間連れ添った夫婦が別れる理由を訊くようなものだよ。たったひとつの理由があるわけではなく、いくつもの要因が重なった結果だったんだ。いずれすべてを話すときが来ると思う。

●マグナムは未来日の大物ハード・ロック・バンドですが、あなた個人は日本に来たことがありますか?

まだ一度もないんだ。マグナム時代に日本に行ければ良かったんだけどね。私たちのライヴを見てもらえば、もっと人気が出たはずだ。かつてマグナムのドラマーだったジム・コープリーはCharとも活動していて、日本のことをいろいろ話してくれた。羨ましくてたまらなかったよ!ジムとは親しい友人だったんだ。いなくなって寂しいよ(2017年に他界)。

Mark & Phil / courtesy Mark Stanway
Mark & Phil / courtesy Mark Stanway

<ゲイリー・ムーアは尊敬すべきギタリストだった>

●現在のメイン・バンドであるキングダム・オブ・マッドネスについて教えて下さい。

キングダム・オブ・マッドネスは1978年から1994年にかけてのクラシック・マグナムの音楽をプレイするバンドだ。名曲の数々をバンドとファンで楽しむという主旨の、本来ロック・バンドがあるべき姿に立ち返っているんだ。ドラマーのミッキー・バーカーは1980年代から1990年代にマグナムの一員で、私がプレイしてきた中でトップ・ミュージシャンの1人だよ。

●2020年、キングダム・オブ・マッドネスに元ブラック・サバスのトニー・マーティンが加入すると発表されましたが、その話はどうなったのですか?

それは実現しなかったんだ。ウェブやSNSでライヴ告知はしたけど、トニーのソロ活動とスケジュールのバッティングがあって、その後コロナ禍でいろいろあって... 彼とはM3“クラシック・ホワイトスネイク・ライヴ”で一緒にやったことがあるし、長い付き合いだ。素晴らしいシンガーだし、今でも良い友人だよ。現在キングダム・オブ・マッドネスではマーク・パスカルというイギリス人のシンガーが歌っている。マグナムの曲を歌うのには彼の声質の方が向いているかも知れないね。

●今後の予定を教えて下さい。

キングダム・オブ・マッドネスでライヴ活動を行うし、クワイヤボーイズのスパイクとのプロジェクトも進行中だ。スパイクズ・フリー・ハウスという名前で、ルーク・モーリー、サイモン・カークを加えてフランキー・ミラーの曲をプレイしたんだ。“スウェーデン・ロック・フェスティバル”にも出演したけど(2015年)、アルバムもレコーディングした。ライヴではフリーの「オール・ライト・ナウ」なんかもプレイしたよ。アルバムではクワイヤボーイズのニック・メイリングがベースを弾いたけど、今後は新しいメンバーを入れることになると思う。結成当初はフリーのアンディ・フレイザーを加える予定だったけど、亡くなってしまったんだ。さらにキングダム・オブ・マッドネスとして新曲も書いている。これまで過去の曲を書いてきたけど、このラインアップだったらクリエイティヴな方向に進んでいくことが出来ると思う。

●キングダム・オブ・マッドネスでマグナムの曲をプレイすることについて、作曲者のトニー・クラーキンと話しましたか?

いや、トニーとはしばらく話していないけど、私のことは嫌いではない筈だよ。マグナムを辞めたことで怒っていなければね(苦笑)。使用料もきちんと話しているし、どこかで会う機会があれば久しぶりに話すつもりだよ。

●自伝『Close To The Mark』はあなたの音楽キャリアについてコンパクトにポイントを絞りながら興味深い内容に仕上げていますが、2015年までの物語となっています。続編を書く予定はありますか?

今まさに、その後のことを書いているんだ。マグナムを脱退したいきさつについても明らかにしているし、それ以降のこともね。いろんなことをやってきたんだ。スウェーデン・ロック・シンフォニー・オーケストラの一員としてダン・マッカファティ(ナザレス)やジョー・リン・ターナー(レインボー)とプレイしたこともあったし、面白い内容になると思うよ。もう半分ぐらい書いたところだ。本が完成したらまたインタビューをやろうよ!

●ゲイリー・ムーアはシン・リジィのメンバーだったこともあり、フォル・ライノットと切り離すことの出来ない存在でしたが、彼と親交はありましたか?

うん、知り合いだったし、共演したこともあるよ。凄いギタリストだった。ゲイリーと初めて会ったのは1970年代、彼がコロシアムIIでやっていたときだった。私が当時やっていたレインメイカーというバンドが前座を務めたんだ。ロンドンの“アレクサンドラ・パレス”、バーミンガム“タウン・ホール”...ドラマーのジョン・ハイズマンに「良いバンドだね」と褒めてもらったこともある。それからずっと後になって、彼とフィルの3人で、フィルの家でジャムをやったこともある。ジョン・サイクスがいなくなる前だから、1983年のことだと思う。尊敬すべきギタリストだったし、いつもジョークを飛ばして笑っていたね。マリリオンがヘッドライナーを務めた野外フェスに一緒に出演したこともあった(1986年6月28日、ミルトン・キーンズの“ウェルカム・トゥ・ザ・ガーデン・パーティー”)。ゲイリーだけでなく、ドン・エイリーとも、彼がコロシアムIIにいたときからの友達だ。私の家に来たこともあるし、愛すべき人間だよ。もちろん最高のキーボード奏者だ。M3に私が加入したのは、それまでバンドの一員だったドンがディープ・パープルでやることになったからだった。「マーク・スタンウェイに声をかけてみたら?」と言ってくれたそうだよ。彼には感謝しかないね。

Mark Stanway自伝『Close To The Mark』(自主制作、現在発売中)
Mark Stanway自伝『Close To The Mark』(自主制作、現在発売中)

【マーク・スタンウェイ公式サイト】

https://www.markstanway.co.uk/

【キングダム・オブ・マッドネス公式サイト】

https://www.kingdomofmadness.co.uk

【マーク・スタンウェイYouTube公式チャンネル】

https://www.youtube.com/@markstanway1

【レコード会社サイト】

Cleopatra Records

https://cleorecs.com/

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,300以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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