Yahoo!ニュース

『坂上どうぶつ王国』で相性の悪い犬同士を放ちトラブル 「動物行動学」から回避を考察

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
イメージ写真(写真:アフロ)

4月5日放送の『坂上どうぶつ王国』で『第2のさかがみ家では新入りvs問題児で大事件が!』というコーナーがありました。そこで、ギン太郎くんとレオくんは相性が悪いのですが、その2匹の犬をドッグランに放ちました。すると、ギン太郎くんがレオくんを襲うトラブルの映像が放送されていました。このことについてSNS上で非難が殺到しています。

動物行動学的に見て、このことを回避できなかったのかを見ていきましょう。

レオくんが、さかがみ家に来た経緯

イメージ写真
イメージ写真写真:アフロ

レオくんは、10歳の柴犬の雄です。

元飼い主は高齢の男性で、病気で入院して手術し、もう自宅に戻って来られない可能性があったのです。そのうえ、レオくんは親戚や知り合いにも引き取り先が見つからず、最悪は保健所に行くしかないという状態でした。

それで、急遽、さかがみ家がレオくんを引き受けたそうです。

番組の中でも説明していますが、柴犬は家族の人にはよく懐きますが、それ以外の人には、なかなか懐かないので、ある意味新しい里親を見つけることが難しい犬種です。たとえば、トイプードルなどは、飼い主が代わっても比較的懐く子が多いです。

そのうえ、レオくんは10歳という高齢なので、これから認知症やがんなどになりやすいので、レオくんを引き取るということは、そう簡単なことではないのです。そんなことも理解して、さかがみ家は預かるのですから、頭が下がります。

この番組の中でも流れていますが、レオくんはシャンプーをしてもらっていますが、水を嫌がることもなくおとなしくしています。柴犬は、シャンプーなど水が嫌いな子が多いです。SNSでも柴犬がお風呂に入るのを嫌がる動画がよく投稿されています。それに引き換えゴールデン・レトリバーなどの犬種は、水が好きでシャンプーも好きで、水たまりがあると喜んで入っていきます。

レオくんとギン太郎くんの初散歩で、レオくんが嫌がる

先住のギン太郎くんは他の犬とあまり仲良くできず、同じぐらいの年のレオくんと仲良くなればいいという思いで初散歩に出かけています。

番組をよく見ると、ギン太郎くん、スタッフ、スタッフ、レオくんという順番で並んで散歩をしているとき、レオくんもギン太郎くんもシッポをあげて快適に散歩しています。

しかし、その順番が乱れて、ギン太郎くんがレオくんに近づくと、レオくんは、シッポを股の方に下げて、明らかに嫌な様子を示しています。番組の中でも、スタッフさんたちは、レオくんが嫌がっていることを理解しています。

理想はどんな犬も仲良くできることなのでしょうが、年齢も育った環境も違うので、すぐに喧嘩もなく遊べるようになるのは、難しいです。

ドッグランでギン太郎くんがレオくんを襲う

イメージ写真
イメージ写真写真:アフロ

初散歩で、ギン太郎くんは、レオくんを襲って優位に立とうとしていたことが、わかっていたはずです。

犬は、猫と違って群れ社会の動物です。そして上下関係で仲間関係を確認します。

ギン太郎くんは、レオくんより優位に立ちたいという思いが強い犬です。

その2匹をドッグランに放ったので、スタッフの隙をぬってギン太郎くんがレオくんに馬乗りになり襲うことになったのです。

映像を見る限り、レオくんには外傷がないように見えます。もちろん、打撲や精神的なダメージがあったかもしれません。

初散歩でもわかるように、レオくんは、スタッフがいてある程度距離があれば、ギン太郎くんがいても平気ですが、距離が縮まると恐怖心を抱いています。

こう書くとギン太郎くんが、レオくんを襲うから悪いように思うかもしれません。ギン太郎くんは、そういう性格の犬ですので、ギン太郎くんは悪いわけではないのです。

このことは、事前に回避できたのではないでしょうか。それをしなかった理由をさかがみ家のスタッフの見解をお聞きしたいです。

この映像を見た人のSNSの反応

SNSを見ると、この『坂上どうぶつ王国』は人気の番組なので、多数非難の投稿があがっています。

たとえば、「レオくん可哀想!スタッフの対応に怒りが込み上げてきました」「面白がっているとかしか思えない」などです。

さかがみ家では、野犬や問題のある犬たちを多く引き取っているので、スタッフが少し目を離した隙に、このようなことは起きやすいのかもしれません。犬同士の喧嘩は、日常に起きていて、野犬や問題のある子を保護することの難しさを知らせたかったのでしょうか。

まとめ

イメージ写真
イメージ写真写真:アフロ

犬は群れ社会の動物で、上下関係で仲間を認識します。多頭で犬を飼うということは、それぞれの犬の習性を理解して、犬の行動学を知って適切に対処することが大切です。

犬の平均寿命は、約14歳です。そのことを知って、終生飼養をしてあげてください。

そして、望まない命を生み出されないために、不妊去勢手術をしましょう。野犬は人が遺棄したことによって、できた犬です。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

石井万寿美の最近の記事