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リアル銀河鉄道「スタートラム計画」新幹線の100倍の速さで宇宙へ発射?必要な電力は原子炉約40基分?

スタートラム©Wikipedia

皆さんは、まるで銀河鉄道を具現化したような「スタートラム」をご存知でしょうか?スタートラムでは、まず非常に長い真空チューブを宇宙に向かって地表に設置します。そして、磁気浮上によって宇宙船が加速され、真空チューブから大気圏に打ち上げられるシステムなのです。

一見すると不可能そうな乗り物ですが、その実現性を詳しく見ていきましょう。

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■スタートラムの歴史

1960年代、ブルックヘブン国立研究所でジェームズ R.パウエルさんは超電導磁気浮上システムを考案しました。これは皆さんもよく知っている、現代のリニアモーターカーに発展することとなります。

その後パウエルさんはこの技術の研究を続け、航空宇宙工学者らと共同で、1997年までにスタートラムという会社を設立しています。2001年にはスタートラムの論文と特許が発表されているほどです。

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■スタートラムの具体的な設計とは?

スタートラムの試作段階©Wikipedia
スタートラムの試作段階©Wikipedia

スタートラムの試作段階では,貨物船を長さ130kmの真空チューブ内で加速させます。130kmは大体、東京~静岡くらいの距離ですね。真空チューブはアルミニウムの2層構造であり、1層目の壁に電流を流すことで、超電導磁石が搭載されている貨物船を10cmの隙間で浮上させます。そして2層目の壁には交流電流を流し、リニアモーターカーの原理で宇宙船を加速させます。チューブ内は真空が失われないようプラズマ窓が設けられており、出口の機械式シャッターが短時間開いた瞬間に貨物船を外に射出します。

この計画では、真空チューブの出口は標高6,000mの山の頂上に設置します。ちなみに、富士山の標高が3776メートル、エベレストは8849メートルなので、世界の相当高い山に設置する必要がありますね。そして,10度の角度で毎秒8.78kmの打ち上げ速度で貨物カプセルを地球低軌道に送ります。東向きに発射することで、地球の自転の影響を受けることができます。この速さを換算すると、まさに時速3万kmにも到達します。これは、実に新幹線の100倍の速さですね。

NASAのスタートラム試作機©Wikipedia
NASAのスタートラム試作機©Wikipedia

そして打ちあがった貨物船には小さなロケットを搭載しておき、このロケットの燃焼と組み合わせて地球低軌道への投入を実現する計画となっています。

この貨物船の大きさは、直径2m、長さ13m、重さ40tonの想定です。気になる衝撃ですが、なんと30Gもの力が貨物船には加わる計算です。ちなみに、戦闘機のパイロットでさえも約10G以上の衝撃には耐えられず、失神してしまう程です。もし皆さんが第一世代のスタートラムに搭乗していたら、宇宙どころか天国まで飛んで行ってしまうかもしれませんね。

もちろん、衝撃以外にも様々な問題が発生します。真空チューブから発射された瞬間、機首部では想像を絶するほどの空力加熱が加わります。そのため、1秒間で最大100リットルもの水を短時間で消費し、その水で機首部を冷やすことが計画されています。

■スタートラムの最大の課題は大電力!?

スタートラム専用スペースポート©Wikipedia
スタートラム専用スペースポート©Wikipedia

スタートラムの1度の打ち上げで必要な電気エネルギーは、ピーク時に30秒間で約 100 ギガワットと推定されています。100ギガワットがどれほどの電力かというと、なんと原子炉約40基分。年間5700万世帯の電力消費量に値します。そして、地上ケーブルに求められる耐電流値は 280メガアンペア。ここまでの電流値は日常生活では一生聞くことはないでしょうね。一体ケーブルはどれほどの太さになるのか、想像もしたくもありません。これは電力供給が中々難しそうです。

このように課題はたくさんありますが、パウエルさんによると、このスタートラムが完成すれば1日に350トン以上の貨物を宇宙に打ち上げられるとのことです。建設コストは約2兆円を見込んでいます。それでは、このスタートラムが完成した場合、私たちはどれくらいの金額で宇宙に物を運べるのでしょうか。驚きのその金額なのですが、積載物1キログラムあたり、なんと5000円で実現可能とのことです。パウエルさん、ちょっと無理してません?しかしもしこれが完成すれば、誰でも簡単に自作の衛星を宇宙に打ち上げられる時代がやってきますね。

次回の記事では、スタートラムで人類を宇宙に運ぶための壮大な計画についてもご紹介します、お楽しみに!

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