前代未聞の5000円を超える最高級の牛丼は何が違うのか?
日本が誇るファストフード
日本が誇るファストフードとして何を思い浮かべますか。
ラーメンや回転寿司、たこ焼きや立ち食いそば、牛丼やカレーライスなどが挙げられるかと思います。
この中でも特に、日本人が利用するファストフードとして、牛丼を挙げる人は多いのではないでしょうか。
フードビジネス総合研究所の「外食上場企業 売上高ランキング」によれば、ゼンショーホールディングスが1位、吉野家ホールディングスが5位と、牛丼を主力とする企業が外食産業の売上高上位に位置しています。
また、すき家が1930店(2019年6月)、吉野家が1216店(2019年5月時点)、松屋が958店(2019年6月時点)と、上位3つのブランドだけで全国に4000店もあることに加え、どの店も400円前後で食べられ、分量も十分で満足できます。
こういったことから、牛丼は日本人のソウルフードともいうべき食べ物であり、少なからぬ日本人にとって食生活の礎になっているといっても過言ではないでしょう。
ファストフードではない牛丼
国民食ともいえる牛丼はファストフードであり、いかに早く提供され、適度においしく、たっぷり食べられるかが重要となっていました。
しかし、ここにきてファストフードではない、新しい牛丼が誕生したのです。
それは、ザ・キャピトルホテル 東急のオールデイダイニング「ORIGAMI」で2019年6月16日から提供されている「キャピトル牛丼」。
ザ・キャピトルホテル 東急は東急ホテルグループのフラッグシップであり、山王という場所柄もあって、多くの政治家や財界人、著名人が訪れる由緒あるホテルです。
ファストフードのチェーンでは牛丼は400円前後という価格ですが、「キャピトル牛丼」は4600円で、消費税とサービス料を入れると5464円になります。
5000円を超える超高級牛丼ということで、早速話題となっているのです。
ホテルでは珍しい牛丼
そもそも、ホテルで牛丼が提供されること自体が珍しいといってよいでしょう。
ただ、ホテルでは大衆的な料理が用意されていないわけではありません。
オールデイダイニングでは、カレーライスやハンバーガーから、うどんやそば、パスタやピッツァ、フレンチフライやオムライスが提供されています。
中国料理店では、町場にあるような日本風ラーメンはさすがに見掛けられませんが、中国風の麺であれば必ず用意されているでしょう。
もちろん、どの料理も、ファストフードやファミリーレストランよりも値段は高いですが、上質で洗練されています。
丼ものでは、ステーキ丼や天丼、親子丼やローストビーフ丼は見掛けられますが、牛丼を提供しているホテルはありませんでした。
そういった状況で、伝統と格式のあるザ・キャピトルホテル 東急が牛丼を提供するようになったのは驚くべきニュースです。
定番メニューの難しさ
定番メニューの難しさについても触れておきましょう。
通年の提供となる定番メニューを新しく作り出すことは、季節だけのメニューを新しく作り出すことに比べて、簡単ではありません。
なぜならば、季節だけのメニューの場合には、もしも好評でなければ、次から提供しなければよいだけですが、定番メニューの場合には、そう簡単に提供を中止できないからです。
「キャピトル牛丼」を試験的な季節メニューにしたのではなく、定番メニューとしてデビューさせたことは、大きな英断であったといえます。
値段
「キャピトル牛丼」はその高価さに注目されがちですが、値段は妥当なのでしょうか。
時期によって産地はかわりますが、黒毛和牛リブロースの大判2枚150gが使われています。
黒毛和牛のリブロースであれば通常、ブランドものであれば100グラムあたり1200円以上、ブランドではなくても800円以上はすると考えてよいでしょう。
飲食店では原価率を価格の3割から4割に収めなければ利益を上げるのが難しくなります。「キャピトル牛丼」の値段は4600円なので、原価を1400円から1800円くらいには押さえたいものです。
しかし、黒毛和牛のリブロース150グラムだけで1200円から1800円もかかってしまい、原価のほとんどを占めてしまいます。少しでもより質の高い牛肉を使ってしまえば、すぐにこの金額もオーバーしてしまうでしょう。
もちろん、牛肉以外に原価がかけられていることも忘れてはなりません。
したがって、内容を鑑みると「キャピトル牛丼」は決して値段が高いとはいえないのです。
「キャピトル牛丼」が誕生した背景
どうして、高級な牛丼が提供されることになったのでしょうか。
まず、総支配人を務める末吉孝弘氏には、排骨拉麺(パーコーメン)に続く新たな定番メニューを生み出したいという考えがありました。
また、ザ・キャピトルホテル 東急では、宿泊客のうち、海外ゲストが7割、月によっては8割を超えることもあるだけに、訪日外国人に日本の食文化をもっと伝えたいという思いもあったといいます。
そういったことから、ザ・キャピトルホテル 東急の次なる定番メニューとして、日本人がこよなく愛する牛丼に白羽の矢が立ったのです。
2人の総料理長
2人の総料理長が携わったのも珍しいことでしょう。
2019年4月1日に曽我部俊典氏が総料理長に就任し、それまでは加藤完十郎氏が総料理長を務めていました。
「キャピトル牛丼」は1年半前に構想が練られ、1年前から試作が繰り返されてきたので、2人の総料理長から厳しく吟味され、お墨付きをもらえた牛丼になるのです。
注目どころ
「キャピトル牛丼」について注目するべき点を挙げていきましょう。
まず牛丼の構成です。
牛丼チェーンで使用されている牛肉は、アメリカ産やオーストラリア産のバラ肉ですが、「キャピトル牛丼」では黒毛和牛のリブロースが使われています。
末吉氏が「牛肉のおいしさを味わえる牛丼にしたい」ということで、紅生姜は添えず、具材は牛肉と淡路島産(季節によってかわる)のタマネギだけと非常にシンプル。黒毛和牛のリブロースの旨味に合うようにと、ミリンではなく熊本県の赤酒、砂糖だけではなくザラメを用い、甘くしすぎず、和牛の旨味を引き出すようにしました。
味噌汁ではなくコンソメスープ、漬物ではなくピクルスを付け合わせており、普通の牛丼との違いが表現されています。
コンディメントには温泉玉子、山葵、七味唐辛子、柚子胡椒の4種類が用意されており、味を変化させ、牛肉の味わいをより楽しめるようにしました。
末吉氏が「食器は肌に触れるものなので非常に大切。女性の方にも喜んでいただけるように考えた」と述べるように、テーブルウェアにもこだわっています。
あえて、落ち着いた和の食器ではなく、華やかさのあるロイヤルコペンハーゲンの「ブルーフルーテッド メガ」シリーズを使っているのです。「キャピトル牛丼」のためだけに、敷物も器も全て新しく取り揃えたといいます。
最後に注目したいのはメニュー名です。
シンプルな「牛丼」ではなく、店名を冠した「ORIGAMI丼」でもなく、ホテル名を冠した「キャピトル牛丼」であるのは大いに注目するべきところでしょう。
ザ・キャピトルホテル 東急でキャピトルを冠したメニューが他にないことからも、牛丼への力の入れようが窺えます。
また、「Gyudon」とアルファベット表示する案もあったといいますが、牛丼という漢字から受けるインスピレーションを大切にしたいということで、漢字のままにしました。
最高の牛丼を作りたい
末吉氏は「牛肉は当初の予定より、2ランクもアップしている。質を落とせば値段も安くできるが、最高の牛丼を作りたかったので、そうしたくはなかった」と「キャピトル牛丼」に対する思いを述べます。
ザ・キャピトルホテル 東急の定番メニューといえば排骨拉麺やジャーマンアップルパンケーキが筆頭に挙げられますが、最初から狙っていたわけではなく、自然と定番になったといいます。
そして今度は、ザ・キャピトルホテル 東急が定番を狙って最高級の牛丼「キャピトル牛丼」を生み出しましたが、これからどのようにして、その歴史が紡がれていくのか、非常に楽しみです。