Yahoo!ニュース

なぜ井上尚弥の3団体統一戦は消滅した?モンスターの次戦相手に浮上した強豪とは

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
次が見たい井上尚弥(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

カシメロは9月26日に防衛戦

 WBAスーパー&IBF統一バンタム級王者井上尚弥(大橋)との統一戦が延期となっている同級WBO王者ジョンリール・カシメロ(フィリピン)が9月26日、米国で防衛戦が決まった。同日はジャモール&ジャメール・チャーロ双生児兄弟が2部構成のPPV(別料金を徴収するシステム)イベントでそれぞれ登場。カシメロはジャモール・チャーロ(米=WBCミドル級王者)がメインを務めるカードに組み込まれた。会場はコネチカット州アンキャッツビルのモヒガンサン・アリーナ。無観客試合で相手は未定。

 井上vsカシメロは4月25日、ラスベガスのマンダレイベイ・リゾート・ホテルで予定されたが、コロナ・パンデミックの影響で主催のトップランク社が延期に踏み切った。日本で待機し調整を余儀なくされる井上に対しカシメロは、マネジャーでプロモーターのショーン・ギボンズ氏がラスベガスに用意した一軒家でチームとともに合宿。井上との対決の日を待った。だが一向にスケジュールは発表されず時間が経過。トップランク社とすれば、この垂涎カードは無観客試合で開催するにはもったいないと判断しているに違いない。それは同社がプロモートするワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)vsテオフィモ・ロペス(米)のライト級統一戦と共通するものがある。

 それだけ“モンスター”井上尚弥が本場でも高い評価を得ている証拠に思える。しかしこのまま井上がカシメロの動向を待ってブランクを長引かせると「大丈夫か?」という不安にかられる。年内中に井上の勇姿をリングで見られる希望があっても相手がカシメロである保証はなくなった。

豪州の期待マロニー

 トップランク社そして米国メディアの間でカシメロに代わる対戦候補に挙がっているのが豪州のジェイソン・マロニーだ。これまで21勝18KO1敗。29歳。世界ランキングはWBO1位を筆頭にWBA3位、WBCとIBFは4位とステイタスは申し分ない。双生児の弟アンドリュー・マロニーは前WBAスーパーフライ級王者。6月、アンドリューが王座を明け渡した2日後、同じラスベガスのリングでスーパーバンタム級上位だったレオナルド・バエス(メキシコ)に7回終了TKO勝ち。兄弟の面目を保った。

 もし井上vsマロニーが実現すれば米国での無観客試合となることが有力。赤字覚悟のイベントとなるだろう。それでもトップランク社のドン、ボブ・アラム・プロモーターは以前から「最初(井上vsカシメロ)よりベターなカードかもしれない」と語っていたという。確かにテクニシャンタイプのアンドリューと比べてジェイソンはその戦績どおり、より好戦的でパワーを売り物にする印象。いわゆる噛み合う選手に思える。

最新試合でバエスをストップしたマロニー(写真:Mikey Williams/Top Rank)
最新試合でバエスをストップしたマロニー(写真:Mikey Williams/Top Rank)

 一つ懸念されるのはマロニーがワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)初戦(準々決勝)で当時のIBFバンタム級王者エマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)に接戦ながら判定負けしていること。次の試合(準決勝)でロドリゲスは井上に2ラウンドで粉砕された。共通の相手ロドリゲスを通すとミスマッチに終わるのではないかという意見も聞かれる。

 確かに3団体統一戦という魅力や戴冠したゾラニ・テテ(南アフリカ)戦のKOシーンを振り返るとサウスポーのスラッガー、カシメロが今もっとも井上に相応しい相手と言えるだろう。とはいえ日本のファンはもちろん、米国ファンも井上の登場に絶大な期待を抱いている。たとえ無観客試合であっても、ここは時間を無駄にすることなく、リング復帰を優先すべきではないだろうか。

日本で開催?

 米国メディアの中には井上vsマロニーは日本開催で交渉が行われていると伝えるところもある。先日、日本のメディア関係者に問い合わせてみたが、返答がなかった。進展がないのだろうか。それともただの噂なのだろうか。コロナ禍で井上の渡米に問題があるのなら、日本開催も考慮すべきだと思う。豪州に帰ったマロニーは米国へ戻るよりも日本が距離的に近い。移動の問題は二の次かもしれないが、マロニーにとっても好都合と言えるのではないか。

 一方できょう、日本のメディアの記事をチェックしていたら「カシメロの挑戦者候補にジェイソン・マロニーが浮上」と出ている。なるほどそうなのか。マロニーをカシメロにぶつけて勝者がvs井上というシナリオ。どうやらマロニー争奪戦が展開される可能性も出てきた。

 だが注目したいのはカシメロの防衛戦のプロモーターがPBC(プレミア・ボクシング・チャンピオンズ)で中継するのは有料チャンネルのショータイムという背景だ。マロニーはトップランク社+スポーツ専門ケーブルのESPNと契約している。プロモーションの壁が存在する。前述のギボンズ氏はトップランク社との関係も密だが、PBCやスポーツ映像配信のDAZNが中継する試合にも傘下選手を送り込んでいる。むろんマロニーは有力候補だが、絶対とは言えない。

ブランクを埋めたい

 カシメロは井上との一戦がすぐに実現しない場合、PBC傘下のルーシー・ウォーレン(米)を挑戦者に迎えると伝えられた。私はまだこの線が強いと思う。一時WBAバンタム級スーパー王者に就いたウォーレンの売り物はオリンピックで3大会(アテネ、北京、ロンドン)連続出場という実績。だがシンシナチ出身のサウスポーはプロ転向後パッとしない。戦績は17勝4KO3敗1無効試合。よほどカシメロが不調でリングに上がらない限り負ける相手ではない。

WBC王座決定戦でウーバーリ(左)に判定負けしたウォーレン(写真:PBC)
WBC王座決定戦でウーバーリ(左)に判定負けしたウォーレン(写真:PBC)

 欲を言えばカシメロにはもう少し骨のある挑戦者を選んでもらい、マロニーを井上に譲ってもらいたい。井上にはIBFの指名挑戦者マイケル・ダスマリナス(フィリピン)という選択肢もある。だがコロナ禍で生じた空白を埋める目的でもファンに勇姿を披露する意味でも今、マロニーと雌雄を決することは殊の外、有益だと思える。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

三浦勝夫の最近の記事