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大谷翔平選手の好きな米人気バーガーチェーンに起きた“避けられない異変”!

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
値上げをしても人気があるダブル・ダブル・コンボ。写真:in-n-out.com

 大谷翔平選手の好物が、西海岸を中心に展開されている人気バーガーチェーン「イン・アンド・アウト・バーガー」のハンバーガーであることはご存じの方も多いことと思う。6月15日には、東京に、同チェーンの1日限定のポップ・アップ・ストアが登場して話題となっていたが、そんな同チェーンにも“避けられない異変”が起きてしまった。カリフォルニア州での販売価格が上昇したのだ。その結果、税抜きで、ダブル・ダブル・コンボ(ビーフパテ2枚、チーズ2枚のバーガー、フライドポテト、ソフトドリンクの組み合わせ)が10.45ドル(約1670円)、チーズバーガー・コンボが8.65ドル(約1380円)、バーガー・コンボが8.15ドル(約1300円)となった。

 アメリカではファーストフードの価格は地域により違いがあるが、ロサンゼルス郡での同チェーンの価格は徐々に上昇している。税込みのダブル・ダブル・コンボは、2020年には8.59ドル(約1370円)、2021年には9.14ドル(約1460円)、2023年には10ドル(約1600円)超えの10.68ドル(約1700円)となり、現在は、76セント(約120円)上がって11.44ドル(約1830円)となっている。高いクオリティーながらも価格を抑えてきた同チェーンもインフレの波には抗えなかったようだ。

 今回、価格が上昇した背景には、4月1日に、カリフォルニア州で「ザ・ファースト・アクト」と呼ばれる、賃金格差の是正を目的とした法律が施行されたことがある。この法律により、ファーストフード店で働く従業員の最低時給は16ドル(約2560円)から20ドル(約3200円)へと引き上げられた。それに伴い、同チェーンも、従業員の時給を2ドル(約320円)引き上げ、カリフォルニア州の店舗は一部商品の価格値上げに踏み切ったのである。ちなみに、同チェーンではスタートの時給は22ドル〜23ドル(約3520円〜約3680円)となっている。

インフレ率を上回るファーストフードの価格上昇

 アメリカでは、ファーストフードの価格はこの10年で大きく上昇している。米労働統計局によると、ファーストフードの価格は昨年から4.8%上昇、2014年からはインフレ率24%を上回って47%上昇している。

 米紙USA Todayがアメリカの18の市場を独自調査したところ、マクドナルドのビッグマックミールのミディアムの平均価格は2014年の5.69ドル(約910円)から2024年は9.72ドル(約1560円)と70%も上昇していた。最も安いヒューストンでは7.89ドル(約1260円)、最も高いシアトルでは15ドル(約2400円)と地域による価格差も大きい。

高級品となったファーストフード

 ファーストフードの価格上昇から、消費者からは「ファーストフードはもはや高級品」との声もあがっている。

 オンライン貸付サイトlendingtree.comが、アメリカの2000人以上の成人に対して行った調査によると、価格がどんどん上昇しているという理由で、78%がファーストフードはラグジュアリーなフードと回答。さらに、ファーストフードが贅沢品になった理由として、経済的に苦しいからと回答した人々が約半数に上っている。特に、年収3万ドル(約480万円)未満のアメリカ人の71%、子供のいる親の58%、Z世代の58%、女性の53%が、経済的苦しさをのためにファーストフードは贅沢品になったと回答した。

 そのため、アメリカ人がファーストフードを食べる頻度も減少している。アメリカ人の4人に3人が、通常、少なくとも週に1回はファーストフードを食べているが、62%は価格上昇によりファーストフードを食べる頻度が減ったと回答した。

 ファーストフードの価格に対する捉え方も変わっているようだ。その価格は座って食べるレストランと変わらないとする見方がほぼ半数の46%となっており、22%がファーストフードの方が座って食べるレストランよりも高いと捉えている。

 アメリカでは、レストランでのチップの割合も上昇しており、ファーストフード店でもチップを求めるところが増えているが、44%がファストフード店で過去6ヶ月間にチップを求められたと回答、そのうち43%がチップを払わなかったと回答している。

5ドルのお得メニューの提供

 ファーストフードチェーンは、価格上昇に対する消費者からの反発を受けて、新たな戦略に乗り出している。マクドナルドは、6月25日から、期間限定で5ドル(約800円)のお得なセットメニュー(マックダブルかマックチキンサンドを選択、チキンマックナゲット4個、マックフライ(小)、ソフトドリンク(小))の提供を開始。また、マクドナルドのアプリ利用者を対象に、金曜日に最低1ドル(約160円)のフードをアプリで購入すれば、ミディアムのフライドポテトを無料でつける“Free Fries Friday”というプロモを、年末まで全米で展開する。

 競合のバーガー・キングも負けていない。マクドナルドに先立ち、6月13日から5ドル(約800円)のお得なセットメニューを売り出している。ワッパージュニア、ベーコンチーズバーガー、チキンジュニアの3つの中から選択したフードに、フレンチフライ、チキンナゲット4個、ソフトドリンクがつくセットメニューだ。

それでも食べたいイン・アンド・アウト・バーガー

 ところで、値上げされたイン・アンド・アウト・バーガーのバーガーについて、人々はどう思っているのか? SNSを見ると、

「値上げによる儲けで、結局、強欲な企業が儲かることになる」

という皮肉な声がある一方、

「76セント上がっても、美味しさを考えるとコスパが高い」

「主要ファーストフードチェーンのフードの中では、一番お得感がある」

「価格が上がっても買うよ。ベストなバーガーだから」

とクオリティーの高さから支援する声が多い。

「ディズニーランドと同じようなものだ。入場料を上げると人々は不満に思うが、それでも彼らはディズニーランドに行くからね」

という声もある。実力があるものは、金額にかかわらず、人々を魅了し続ける。イン・アンド・アウト・バーガー然り、そして、スポーツ界史上最高額の契約金を獲得した大谷選手もまた然りだろう。

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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