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大谷選手が購入した豪邸に「非常にお手頃な価格だ」の声 非白人を排除していた地域に立地 今も残る爪痕

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
大谷選手が785万ドルで購入した豪邸。Photo:www.yahoo.com

 一昨日、車を運転していた時のこと、カーラジオから、大谷翔平選手がロサンゼルス郊外のラ・カニャーダ・フリントリッジに785万ドル(約12億3000万円)の豪邸を購入したというニュースが流れた。ちょっと意外に思った。その価格は、ビーチのそばのサンタモニカで売りに出されているコンドミニアムとあまり変わらない価格だったからだ(ちなみに、アメリカでは豪邸のことをマンション、マンションのことをコンドミニアムとそれぞれ呼ぶ。ゆえに、アメリカでは、大谷選手はマンションを購入したと報じられている)。購入した豪邸はラ・カニャーダ・フリントリッジでは最も高額の物件の一つとも報じられているが、大谷選手ならずっと高額の物件でも購入できたことだろう。

非常にお手頃な価格

 実際、購入を報じた地元紙ロサンゼルス・タイムズの記事に対し、Xでは「(大谷選手にとっては)はした金だろう」「彼が持っているお金からすれば、安価な家だ」などの声もあがっている。確かに、大谷選手が獲得した莫大な契約金を考えれば、安価と思われてしまっても不思議ではないのかもしれない。

 ちなみに、大谷選手の豪邸購入がニュースになる数日前には、カリフォルニア州の住宅の平均販売価格が90万ドル(約1億4000万円)を超えたというニュースも報じられていた。大谷選手が購入した豪邸の価格は、カリフォルニア州の住宅の平均販売価格の9倍に満たないからだろうか、こんな声もある。

「ロサンゼルスの家にしては非常にお手頃な価格だ。彼は3000万ドル(約47億円)の家を買うと思っていたよ」

大谷選手の慎ましさの表れ

 ロサンゼルスでセレブや超富裕層が居住するエリアというと、ビバリーヒルズやベルエアがあげられ、何千万ドルもする豪邸が多数あるが、いかにもお金持ちの象徴的なエリアにある豪邸を購入しなかったところに、大谷選手らしい謙虚さが感じられる。ビバリーヒルズでは、観光客向けにハリウッド・スターの家の位置を記した「スター・マップ」なるものが売られていたり、セレブの豪邸を見て回るツアーも行われていたりするが、ラ・カニャーダ・フリントリッジはそんなマップやツアーの対象にはならないエリアという意味で、大谷選手はプライバシーを守ることができるだろう。

 実際、「ラ・カニャーダ・フリントリッジは、慎ましいセレブや野球選手にとって、最適の場所だ。家はベルエアやビバリーヒルズよりずっと安いが、広い土地や大きな家、プライバシーが得られる。ドジャース・スタジアムまでは2つのフリーウェイでまっすぐに行ける」という声もあがっている。

非白人を排除する“サンダウン・タウン”だった

 ラ・カニャーダ・フリントリッジは、大谷選手にとっては干渉されることなく、野球に打ち込むことができる町と言えそうだが、ちょっと気になるところもある。多くのメディアが報じている通り、同地は確かに閑静な高級住宅地ではあるが、かつては「サンダウン・タウン(Sundown Town)」と見られていたからだ。「サンダウン・タウン」とは、差別的な現地の法律や脅迫、暴力を通して非白人を排除することにより、ある種の人種隔離を実践しているコミュニティーを指す。

 実際、同地に居住していたアジア系の友人は「車を運転中、警官から停車するよう命じられ、職務質問されたことが何度もあった」とぼやいていた。

 「ラ・カニャーダ・フリントリッジという小さな町で、黒人であることの代償(The price of being Black in a small town — La Cañada Flintridge)」と題されたロサンゼルス・タイムズの意見記事では、同地に住む、社会的弱者の支援団体「ウェインガート財団」CEOで黒人のブライアン・ウィリアムズ氏が「ラ・カニャーダ・フリントリッジはかつて“サンダウン・タウン”と取り沙汰されていた黒人が歓迎されないコミュニティーであり、特に日没後は、黒人は嫌がらせ、暴力、逮捕の対象となっていた。人種制限、住宅規約、不動産業者の方針、警察の取り締まりにより、黒人はここに住んだり、不動産を所有したりすることが何十年間もできなかった。最新の米国国勢調査の推計によると、現在でも、これらの要因の影響により、町の黒人人口はわずか1.2%にとどまっている」と指摘し、同氏の27歳の息子が家のゲイトの前で見知らぬ白人男性から呼び止められて嫌がらせを受けたという昨年7月に起きた出来事について記している。ウィリアムズ氏は警察に通報したものの、駆けつけてきた警官たちは、犯罪が起きなかったという理由で警察記録には残さなかったという。今でも、同地には“サンダウン・タウン”と呼ばれていた当時の爪痕が残っているのかもしれない。それに、犯罪が多発しているロサンゼルスでは、どんなに安全と考えられている高級住宅地であっても、いつ何が起きてもおかしくはない。大谷選手と真美子夫人は家の周辺で起きていることには十分に気をつけてほしいと思う次第である。

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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