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コロナ前の土俵の世界が広がる光景に涙…。初のドキュメンタリー映画 『相撲道~サムライを継ぐ者たち~』

飯塚さきスポーツライター/相撲ライター
(C) 2020「相撲道~サムライを継ぐ者たち~」製作委員会

上映開始直後。そこには、私たちの知る“かつての”大相撲の世界が、画面いっぱいに広がっていた。大きな声援、割れんばかりの拍手、客席を埋め尽くすたくさんのお客さん、弾ける笑顔、笑顔、笑顔――。こんなにも華やかで彩り豊かな景色が、これまでの国技館には広がっていたのだ。

新型コロナウイルスによる影響で、現在の土俵周りはあまりにも寂しい。その光景にももう慣れたと思っていたが、決してそんなことはなかった。大相撲本来の姿をまざまざと、しかも大迫力のスクリーンで目の当たりにした次の瞬間、流れ出る涙を私は抑えることができなかった。寂しさ、懐かしさ、うれしさ、感動と、あらゆる感情が複雑に入り混じった、不思議な涙であった。

境川部屋・高田川部屋に密着

『相撲道~サムライを継ぐ者たち~』は、大相撲を題材にした新しいノンフィクション映画。2018年末~2019年5月の間の約半年間、境川部屋と高田川部屋(※)に密着して撮影が行われた。どちらも、実に古き良き相撲部屋である。

本作の見どころは、スクリーンに映し出される力士たちの迫力と肉体美だ。テレビではなかなか味わえない、稽古の重厚感とスピード感、滴り落ちる汗のしずくや、体からもうもうと立ち昇る湯気までが、実に鮮明に美しく映し出されている。力士たちが日々どんなに苦しく激しい稽古をこなし、その心身を鍛えているのか。彼らがいかに、相撲に人生のすべてを捧げて生きているか。力士の強さと美しさが、本作に詰まっている。

また、両部屋所属の力士と親方のインタビューも見どころの一つ。当時現役だった、元大関の豪栄道(現・武隈親方)をはじめ、妙義龍、佐田の海、竜電などの人気力士、そして幕下以下の力士たちの声まで拾う。

「稽古を頑張れることも才能」「弱い心を支えるのが稽古」など、相撲道を極める彼らの口から発せられる言葉の数々は、非常に重く尊い響きをもって、胸の中心にダイレクトに突き刺さってくる。

ほかにも、土俵内外問わず、力士のあらゆる生活の様子が描かれている本作。相撲界独特の用語や世界観については、俳優・遠藤憲一さんのナレーションと、相撲漫画家・琴剣さんのイラストを使った丁寧な解説がついているため、これまであまり相撲を見てこなかった人が見ても、大いに楽しめるようになっている。

力士の強さを知ってほしい

メガホンをとった坂田栄治監督は、本作を制作した意図について、次のように語った。

「近年の相撲界においては、力士の土俵での活躍よりも、不祥事をはじめとする悪いことのほうを取り上げられることが多いのですが、私自身マスコミの立場として、そういった現状をとても心苦しく思っていました。そうではなく、力士たちのすごさ、強さを、もっと多くの人に知ってもらいたい。そんな思いでこの作品を作りました」

坂田監督の強い思いは、すべてのシーンにしっかりと乗っている。

大画面の迫力に胸震える、新しい大相撲のエンターテインメント。往年の相撲ファンのみならず、多くの人にぜひこの感動を体験していただきたい。

(※高田川部屋の「高」正式表記ははしご高)

『相撲道~サムライを継ぐ者たち~』

10月30日(金)~TOHOシネマズ錦糸町

10月31日(土)~ポレポレ東中野ほか全国順次公開

スポーツライター/相撲ライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライター・相撲ライターとして『相撲』(同社)、『Number Web』(文藝春秋)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書に『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』。

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