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スウェーデンがウクライナに早期警戒機サーブ340AEWを供与

JSF軍事/生き物ライター
スウェーデン空軍より早期警戒機S100Dアルグス(サーブ340AEW)

 5月29日、スウェーデン政府は16回目のウクライナ軍事支援パッケージを発表しました。総額133億クローナ(約2000億円)の支援はASC890レーダーシステム(エリアイ・レーダー)を搭載した早期警戒機2機およびスウェーデン軍の保有する全てのPbv302装甲車が含まれています。出典:Military support package 16 to Ukraine

 スウェーデンがウクライナに送る早期警戒機はS100Dアルグス(サーブ340AEW)で空軍が保有する2機ともになります。スウェーデン空軍は後継機のS106グローバルアイが2027年に納入される予定で、S100Dを今ウクライナに出すと3年は防空網に穴が開いてしまいますが、その間はNATOの早期警戒機のスウェーデン派遣を要請することになるでしょう。

 S100Dアルグスは双発ターボプロップ旅客機のサーブ340の背中にエリアイ・レーダーを搭載して早期警戒機に改修したもので、早期警戒機としては小振りの機体です。

 現状のロシア-ウクライナ戦争では双方の戦闘機が地対空ミサイルを恐れて活動が低調になり航空優勢を取り切れない状態で、早期警戒機を迂闊には脅威の大きな前線付近には出せません。基本的な運用は後方のウクライナ中央部から西部でロシア軍の巡航ミサイルおよび長距離自爆ドローンを警戒し味方戦闘機への迎撃を指示する使い方になると思われます。

 この戦争ではロシア軍の早期警戒機「A-50」が2機もウクライナ軍のS-200長距離地対空ミサイルに撃墜されてしまうという衝撃的な展開が起きてるので、逆にウクライナ軍が運用する早期警戒機も狙われかねません。ロシア軍にはMiG-31戦闘機のR-37M空対空ミサイルやS-400防空システムの40N6地対空ミサイルといった長距離対空ミサイルがあるので、ウクライナ軍の早期警戒機は相当に慎重な運用を行う必要があります。

 早期警戒機の積極的な運用方法としては、前線に近いウクライナ東部や北東部や南部で滑空誘導爆弾を投下するロシア戦闘機を排除するために、ウクライナ戦闘機が空対空戦闘を仕掛ける際に早期警戒機がレーダー情報で指示して支援を行うことなどが考えられますが、この場合は逆に敵の戦闘機に味方の早期警戒機が狙われてしまう危険性も生じます。

 S100Dアルグス(サーブ340AEW)早期警戒機はこれからウクライナに送られる予定のF-16戦闘機と同じデータリンクを搭載しているので、両者が連携した作戦で真価を発揮することが可能です。

参考:S100D(スウェーデン軍公式サイト)

【用語解説】

  • AEW : Airborne Early Warning 早期警戒機
  • AEW&C : Airborne Early Warning & Control 早期警戒管制機
  • AWACS : Airborne Warning And Control System 早期警戒管制機
  • Argus : ギリシア神話の100の目を持つ巨人。アーガス、アルゴス、アルグス
  • Erieye : エリアイことエリクソン・アイ。スウェーデンのエリクソン・マイクロウェーブ・システムズ社(現在はサーブ・マイクロウェーブ・システムズ社)の早期警戒レーダー。空中目標だけでなく海上目標も識別可能
  • ASC890 : Airborne Surveillance and Control 890、S100Dのシステム名称。エリアイ・レーダーを使用
  • FSR890 : Flygburen SpaningsRadar 890、S100Bのシステム名称。エリアイ・レーダーを使用

※AWACSは本来はアメリカ空軍の呼び方であり早期警戒管制機の一般名称ではなくそもそも「早期」に該当する言葉は付いていないが、早期警戒管制機の全般を指す言葉として世界中で広まっている(厳密には誤用)。なおボーイング社はE-3セントリーおよびE-767をAWACSと呼び、E-7(E-737)はAEW&Cと呼んで区別している。

※S100Dアルグス(サーブ340AEW)は英語圏ではAEW&Cとする表記が多いが、スウェーデンではAEWとする表記が主流。サーブ社自身もサーブ340AEWと呼んでいるが、サーブ2000AEW&CやグローバルアイのことはAEW&Cと呼んで区別している。

※一方でS100Dアルグスのシステム名称であるASC890(Airborne Surveillance and Control 890)は直訳で「空中監視管制890」であり、AEW&C(空中早期警戒管制)と同じく「管制」という単語が入っている。

※AEW(早期警戒機)とAEW&C(早期警戒管制機)を区別する明確な基準はない。ただしヘリコプターに早期警戒レーダーを搭載したような簡素なものをAEW&Cと呼ぶことはあまりない。固定翼早期警戒機については最近の新しい機種はAEW&Cと呼ぶ場合が多いが、前述のアメリカ空軍の呼称であるAWACSが有名になり過ぎて他国の機種までAWACSと呼ぶ場合がある。厳密には誤用だが広まった用法なので意味は通じる。

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人戦闘兵器、オスプレイなど、ニュースに良く出る最新の軍事的なテーマに付いて解説を行っています。

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